ボラ仲間の活動リポート
東日本大震災の発生から1年が過ぎ、被災地では町の復興や人々の生活再建が進められています。しかし、被災者の中には、仮設住宅にも入れない、仕事に就けないなどの問題に直面している人もまだ多くいます。こうした状況を少しでも改善しようと、東京・足立区のNPO“地域の芽生え21”では、被災した自宅で生活している人や、仮設住宅には入れたものの収入がない、といった人たちを支援する取り組み、“心柱(ここばしら)プロジェクト”を開始しました。
被災地での生活再建を支えたい
“心柱”は、石巻市などで被災した家屋の柱を利用した小さな木札で、携帯ストラップやキーホルダーとして利用できるようになっています。この心柱のひもつけや袋詰めなどの作業の一部を被災した人たちに依頼し、それを買い取ることで、収入面から支えようというのが“心柱プロジェクト”です。完成した心柱は石巻市や松島町の土産屋やボランティア団体が買い取り、店舗やインターネットで販売しています。価格は500円で、そのうちの350円が作業した人の賃金にあてられます。
“地域の芽生え21”では、これまで被災地に自転車を贈ったり、夏場には津波の被害を受けた地域に除菌・消臭液を散布する消毒ボランティアを派遣するなどの活動を行ってきました。
復興支援活動を担当する桑原有広さんは、被災した人たちの生活再建を助けたいという思いから、このプロジェクトに取り組み始めました。
みんなで作る心柱
“心柱”は、東京のボランティアと被災地の人たちが協力して作られています。まず桑原さんが、被災地から材料となる木材を東京に運んできます。それを建具屋で2センチ×4センチほどの木札に切り出します。材料に選んでいる家の柱には、ヒノキなどの高級な木材が使われています。それを、津波にも折れずに被害をかわしたことにあやかって“心柱”に利用しているのだと、桑原さんは言います。
切り出された木札は、次に小学生ボランティアの手に渡ります。小学校ではボランティア学習の一環として、ひもを通す穴を開けたり、やすりで角を削るなどの作業を、道徳や図工の時間を使って行っているそうです。
こうしてでき上がった心柱の原板を、桑原さんが石巻や福島などの被災地に運びます。絵つけ、ひもつけや袋詰めの作業を仮設住宅などで生活する人たちが行って、心柱が完成します。
この完成作業をした人には、1個につき350円が支払われます。作業は難しいものではないため、年配の被災者にも無理なくできて、収入を得ることができます。
このように、働きに出られない年配の人や、なかなか仕事に就けない人などを収入面から支えようというのが、“心柱プロジェクト”なのです。
桑原さんに伺いました。
──東京のボランティアの方とはどういうつながりですか?
「建具屋さんは私の小・中学校の同級生です。小学校のボランティアは、最初に私の子どもが通っている小学校にお願いしました。すると、他の学校にも話が広がり、いくつかの小学校で協力してもらえることになりました」
地域の芽生え21 桑原有広さん──500円の売値のうち、350円が作業をした被災者に支払われますが、残りは材料費ですか?
「50円は材料費ですが、100円は被災地で活動するボランティアに寄付して、ガソリン代や炊き出し準備費などにしてもらっています。現地には、いろいろな人たちが支援活動に来ているので、そうすることでまた支援の輪が広がっていくと思うからです」
工業高校の生徒もプロジェクトに参加
“心柱プロジェクト”に共感し、参加したいと申し出たのが東京都立墨田工業高等学校の機械科です。墨田工業高校では、これまでにも“奉仕教育”として、東京マラソンの会場の後片づけ・清掃のボランティアや、交通安全をPRする木製ストラップを作ってボランティア団体に寄付するなどの活動を行ってきました。
墨田工業高等学校 岡村義昭先生岡村義昭先生は、新聞記事で“心柱プロジェクト”のことを知って、参加したいと考えました。
「“心柱”の写真を見たときに、学校にあるレーザー加工機を使って絵つけをすれば、効率よく作業ができるのではないかと思いました。このプロジェクトなら、学校の特色を生かして被災地の支援ができるし、作業に携わった生徒たちも、自分たちの手で支援に協力するという実感を持てるのではないかと思いました」
墨田工業高校で作業した“心柱”加工作業は、機械科の有志の生徒たちが放課後の時間を利用しています。ひもを通すための穴開け、絵つけ、やすりをかける作業を1日1時間行い、プロジェクトに参加してから3週間で500個の“心柱”の原板ができました。これを桑原さんが被災地に運んで、ひも付けや袋詰めをして貰います。
墨田工業高校で作業したこの心柱は、日米桜寄贈100周年を記念して、4月にニューヨークのカーネギーホールで行われる交流演奏会の記念品として、演奏会に参加したアメリカ市民に配られることになっています。
佐藤静香さんこのプロジェクトに参加している生徒の皆さんに、作業の感想を伺いました。
佐藤静香さん「プロジェクトに参加することで、震災のことを忘れないでいられる気がします。とても大事な取り組みに関わっていると感じて、やりがいがあります」
住吉拓斗さん住吉拓斗さん「募金をしても、そのお金がどこで使われているのか、よくわからないけど、“心柱”は直接買ってもらえるという事で、実感が湧きます。作業をすることで被災地の役に立てるならいいと思いました」
岡村先生に伺いました。
──作業で苦労することはありますか?
「木材は、湿度の影響を受けるので、晴れの日と雨の日では状態が違います。ですから、絵付けをするときには、レーザーを微調整しないと焦げすぎたり、薄すぎたりします。穴を開けるときも、穴が曲がってしまうことがあるので、天候を気にして慎重に作業しなければいけません」
──学校では、今後もボランティアに取り組んでいくのですか?
「そうですね。今回は、桑原さんのアイデアとうちの学校でできることが、うまくつながって心柱を作ることができましたが、他にもこの学校の技術を生かしてできることが、もっとあるのではないかと感じています。これからも“物を作る”ということに限らず、学校でできることをやっていきたいです」
被災した人たちの“心の柱”に
“地域の芽生え21”の桑原さんがこの活動をしていて喜びを感じるのは、被災地の人たちが東北弁で「また来いよ」と言ってくれる瞬間だそうです。
「学校の生徒たち、建具屋の同級生、被災地の皆さん、いろんな人たちの手で“心柱”は作られています。ボランティアをしていると、いろいろな方たちと知り合うことができるし、こうしたつながりを大切にしながら、ボランティア活動をしていけたらいいと思っています。そして心柱プロジェクトが、被災した人たちを支える“心の柱”になれるようにと願っています」
2012年4月6日掲載 取材: text/真鍋,小保形 photo/福田,地域の芽生え21・桑原さん