ボラ仲間の活動リポート
草木が伸び放題の荒れた森。地域に住む人たちがボランティアで森を整備をし、保護する活動を始めました。
誕生から7年経つ「野川はあも」の会員は約40人。毎月、下草刈りや落ち葉かき、間伐や倒木の整理、植樹などの作業をしています。
市民が守っている雑木林
川崎市宮前区の住宅街の一画に「南野川ふれあいの森」という緑地があります。
およそ9000平方メートルの傾斜地に、クヌギやコナラなどの木が生い茂る雑木林です。季節ごとにさまざまな花が咲き、ヤブカンゾウやヤブツバキ、キンランなど野生の蘭も見られます。アゲハチョウやキタテハなどの蝶や、ヤマガラなどの野鳥もやって来て、季節を通して楽しめます。斜面の上から森を見渡すことができる散策路は、近所の人の散歩コースになっています。
南野川ふれあいの森に咲く花
左からヤブカンゾウ、ヤブツバキ、キンラン
「南野川ふれあいの森」は、川崎市が地主さんから借り受けている土地で、以前は手入れがされず草木が伸び放題の荒れた森でした。
7年前からこの地域に住む人たちがボランティアで森を整備し、保護する活動を始めました。市民団体“野川はあも”の人たちです。
毎月第一日曜日にふれあいの森に集まって、下草刈りや落ち葉かき、間伐や倒木の整理、植樹などの作業をします。
会員は40人ほどで、2歳から70歳までという幅広い年齢層です。
親子連れの参加も多く、森にある自然を観察したり、間伐した木を利用して巣箱やベンチを作るなどの活動もしています。
大人も子どもも一緒になって、“森を守り・育てる”と同時に、“森から学び・遊ぶ”というのが、活動の基盤になっています。
作業前の準備も活動の一部
1月に野川はあもが行う作業は“落ち葉かき”。活動の後には落ち葉の観察も行います。
集まったのは、いつもよりやや少なめの21人でした。風邪で来られなくなってしまったメンバーもいるようです。でも、ここにいる11人の子どもたちは、1月の寒さにも負けずとても元気です。
みんなが揃うと、まずは安全に作業を行うための注意事項の確認です。
指導をするのは、野川はあもの代表・小林菊代さんです。小林さんは樹木医として公園の木や街路樹の診断や治療を行う、樹木のプロです。
大きな布に書かれた『ふれあいの森でのおやくそく』には、
つるや草に足をとられて思わぬ大けがになります。
など、たくさんの約束ごとが書かれています。
森の中で活動するときには、予想外のアクシデントも多く、こうした確認を怠らないことが大切なのだそうです。
準備体操で身体をほぐして温めたら、今日行う「落ち葉かき」についての説明があります。
「毎年冬に落ち葉かきをやっていますが、なぜだかわかりますか?」
と小林さん。子どもたちはみんな考えます。小学1年生の至恩(しおん)くんは、
「落ち葉があると日が当たらなくていろんな植物が育たないから」と答えます。
「すばらしい」と、みんなから拍手。
続けて小林さんは、
「落ち葉かきをすることで、地面の中に眠っている種にも日の光が届くようになります。だから季節ごとにいろいろな花が咲いていますよね。私たちが作業することが森の中の植物を育てることに繋がっているんです」
はあも結成の頃から参加している森正俊さんは、
「子どもたちには、どうしてこういう作業をしないといけないのか、作業したらどんな結果が出るのか、ということを理解してもらいたいですね。
それがわかると、みんな一生懸命やってくれますよ」
と言います。
子どもたちと一緒に、落ち葉かきと落ち葉の観察
さあ、作業開始です。大きい枝やゴミを手で拾ってから、熊手を使って落ち葉をかき集めます。
落ち葉を運ぶために広げたブルーシートの上には、あっという間に大量の落ち葉が集まりました。ブルーシートがいっぱいになったら、みんなで運び出します。
ふれあいの森の南側の一画に運んだ落ち葉を撒きます。ここは住宅の建設工事のため前方の木が無くなり、日がよく当たるようになったので、落ち葉を使って土が乾燥しすぎるのを防ぐのだそうです。
「2kgあるかな?」「ぼくにも持たせて」
落ち葉かきの作業を終えると、落ち葉の観察会が始まります。
小林さんがこんな問題を出しました。
「1平方メートルあたりの落ち葉の重さはどのくらい?」
木の枝で1平方メートルの囲いを作って、その中にある落ち葉をビニール袋に集めます。
みんなの予想は1.5kg、1.8kg、2.2kg…。ばねばかりで量ると、「正解は0.8kgです」小林さんの娘の楓ちゃんが見事正解しました。
分解する途中の落ち葉の固まり。「葉を食べる虫のフンなどによって、接着剤で付けたように固まっています」
続いて、落ち葉が分解して土になっていく様子を観察します。
落ち葉を拾って見ると、表面が白くなっているものがありました。これは葉っぱを分解する菌が付着しているのだそうです。微生物の働きによって落ち葉は50年かけて腐葉土のような状態になり、完全に土になるにはなんと1000年もかかるそうです。この話にはみんな「うそ!そんなに!?」と驚いていました。
荒れた森を“ふれあいの森”に
代表の小林さんに活動を始めるきっかけについてお話を伺いました。
「私たちが活動を始める7年前まで、ここは『ふれあいの森』という名前にふさわしくない、薄暗くうっそうとした、荒れた森でした。
そこで“この森の保全について市民で考えよう”という企画を宮前市民館が主催し、集まった人たちで緑地を歩いて、意見交換をしました。
すると、『森をこのまま放っておいたらいけないよね』『自分たちでできるところをやればいいんじゃないか』という声があがったんです。
その時はみんな初対面だったのですが、“自分たちで森を何とかしたい”という純粋な気持ちが働いて、すぐに動くことができたんです」
“野川はあも”の誕生です。
樹木医の仕事をしている小林さんは、その専門知識を活かして、6人の仲間とともに緑地保全の活動を始めました。
“大人の真似をして”はじまった子どもたちの参加
野川はあもは、季節の森の状態に合わせて、年間の活動計画を立てています。
春は下草刈り、柵や看板の補修、夏は下草刈りと竹きり、秋は倒木や落ち枝の整理、どんぐりの植え付け、冬は間伐、落ち葉かきなどです。
作業の中では、子どもたちと一緒にできるちょっとしたお楽しみも。作業で出た間伐材にしいたけの菌を植えつける「駒打ち」を行って春と秋に収穫します。また、みんなが作って木に取り付けた巣箱には、シジュウカラが卵を産み、ひながかえったのだそうです。
「落ち葉の布団、温かいよ」子どもたちは遊びを見つけるのがじょうず。
「活動のやり方を確立するまでは大変でした。私の娘も他のメンバーのお子さんも幼かったので、家に置いてくるわけにもいかず、ここに連れて来ていました。そうすると子どもたちは、大人が竹を切ったりする様子に興味を持ち、真似するようになったんです。だから、子どもに合わせたプログラムを作るのではなく、緑地保全の作業に子どももできる範囲で参加させて、観察や遊びも少し取り入れる、という今の形になりました。」
7年経ち、子どもたちも成長して、大人の代わりに年下の子の面倒を見てくれるようになりました。現在では作業と遊びのバランスがうまく取れた活動になってきているようです。
南野川ふれあいの森の入り口にある、かわいいてんとう虫の掲示板は、間伐材を利用してみんなで手作りしたものです。
野川はあもの活動報告や、ふれあいの森で撮影された花や蝶の写真を掲示しています。
掲示板のデザインを考えたのは、6年生の朗生(あきお)くんです。
「かわいいデザインがいいなと思って考えました。選ばれた時は『うそ!?』と思いました。はあもでは、自然のものを使って、ベンチなどいろいろなものを作れるのが楽しいです。」
仲間同士の助け合いで続いていく活動
野川はあもでは、お父さんも一緒になって参加する姿が見られます。
5年生の息子さんと参加していた田原一彦さんは、
「僕が来るようになったのは3年くらい前からかな。最初は家内と子どもが参加していましたけど、最近は僕の方が多く参加していますよ。
日頃野外で身体動かすということがほとんどないので、気分いいですよね」と言います。
メンバーは宮前区の全域から来ているので、子どもたちの通う学校はバラバラだそうですが、みんなとても仲良しです。
9歳と7歳の姉弟を連れて参加していた相澤美奈さんは、
「4年前から参加しています。その時下の子は3歳で、一番ちっちゃかったんです。ここでは、お兄ちゃんやお姉ちゃんにかわいがってもらえるし、年齢の違う子と遊ぶことでいろいろなことを学べているみたいですよ」と話してくれました。
作業をするためののこぎりなどの道具は、市から出る補助金で購入しています。チェーンソーなどの大きな道具が必要となる時は、近くのホームセンターでレンタルしているそうです。
ふれあいの森のような雑木林は、定期的に人が手入れをしていかないと、もとの荒れた状態に戻ってしまいます。日々成長する森を保全していくには活動を継続して行っていかなければなりません。
野川はあもが活動を長く続けられている秘訣は、誰もが気軽に参加でき、幅広い年齢層の人たちがお互いを気遣いながらできる範囲でお手伝いする、というところにあるのではないでしょうか。
この日も、ご近所に住む方が散歩のついでにみんなの活動を覗いて、落ち葉かきを手伝ってくれる場面が見られました。
「会員でなくても参加できますので遊びにきてみてください。いつでもウエルカムです」
いつも笑顔でみんなを見守っている小林さんがとても印象的でした。
2011年2月22日掲載 取材: 小保形