ページ内のショートカット(この場所に戻ります)

  1. このページの本文
  2. サイトメニュー
  3. サイト内検索/文字サイズ変更
  4. このサイトについての情報

NHK厚生文化事業団は、NHKの放送と一体となって、誰もが暮らしやすい社会をめざして活動する社会福祉法人です

サイトマップ
サイト内検索

文字サイズを変更できます

NHK厚生文化事業団


ボランティアネット アーカイブ


渋谷はるのおがわプレーパーク 〜第一部(活動編)〜

近所に子どもたちが遊べる場所はありますか?
都市化が進む地域では、かつてあった野原や小川も整備されてアスファルトの下に。子どもたちが外で走り回り、自然と触れ合えるような場所は少なくなっています。地区公園などにはさまざまな遊具がある一方で、“ボール遊び禁止”“木登り禁止”など、たくさんの禁止事項が設けられています。安全性を配慮してのことですが、時に子どもたちの遊びを創造する力を押さえつけてしまうことにもなりかねません。

写真プレーパークのかまどで火をおこす子どもたち そんな中、「子どもたちがもっと自由に遊べるように」と願う親たちが中心となり“冒険遊び場”または“プレーパーク”と呼ばれる遊び場づくりが全国に広がっています。
ここでは既存の遊具は置かず、すべてスタッフや地域のボランティアによる手作り。子どもの遊びにはつきものの『危ない・汚い・うるさい』を認め、木登り、穴堀り、たき火など一般の公園で禁止されている事項をなくしました。
『自分の責任で自由に遊ぶ』を基本にした遊び場です。

今回は、若者でにぎわう街、渋谷にある都会の中のプレーパークについて、2回に分けてリポートします。

都市の遊び場

写真入り口には手作りの看板 渋谷駅から、デパートや飲食店などが建ち並ぶ繁華街を抜けて15分程歩くと、代々木公園西側の通りに挟まれた細長い緑地が見えてきます。この中に「渋谷はるのおがわプレーパーク」、通称「はるプレ」があります。

「はるのおがわ」という名前は、プレーパークの近くにその昔流れていた河骨(こうほね)川が、唱歌『春の小川』の舞台の川だったため付けられました。現在はふたをされて暗きょとなっています。

写真すべり台の上にタイヤを並べ、シートを被せてウォータースライダーに はるプレの敷地はそれほど広くありませんが、周囲には草木が生い茂り、廃材などを利用して手作りした遊具があちこち置かれ、子どもたちには絶好の遊び場のようです。竹とロープで作られたブランコ、ウォータースライダー用の木のすべり台、子どもなら4,5人くらいは入れそうな小屋、木の上に作られた秘密基地などがあります。

このはるプレ、渋谷周辺で子育てをしてきたお母さんたちを中心に結成された市民団体「渋谷の遊び場を考える会」の呼びかけにより、渋谷区の協力を受けて6年前に開園しました。渋谷区側は公園課が窓口となって区から毎年運営費が出され、管理と運営は「渋谷の遊び場を考える会」に委託されています。
園内には「渋谷の遊び場を考える会」から任命された“プレーリーダー”と呼ばれる有給のスタッフが常駐し、プレーパークに遊びにくる子どもたちを見守る役目を担っています。

遊び場を支える多くの人たち

はるプレの運営は、「渋谷の遊び場を考える会」とプレーリーダーが中心となっていますが、実際にはもっと多くの人々の力によって支えられていることが、取材を通してよくわかりました。遊び場をより楽しく、より活発にする原動力となっているのは地域住民の「お手伝い」というボランティアの心です。
子どもと遊びにきたお父さん、お母さん。ベーゴマや、地面に釘を刺して陣地を競ったりする“釘刺し”など、昔の遊びを教えてくれる近所のおじいちゃんやおばあちゃん。敷地の隅に畑を作って子どもたちと野菜を育てているおじさん。幼い頃ここで遊んでいた中学生・高校生もときどき顔を見せにやってきます。
写真夏に行う流しそうめんは子どもたちも大喜び
子どもたちと遊んだり、遊具を作ったり、イベントを盛り上げるお手伝いをしてくれる欠かせない存在です。
また、地域のボランティアセンターを通して夏休みに体験ボランティアとして来てくれる人や、渋谷周辺にある企業から社会貢献として来てくれる社員の人たちもいます。こういった人たちが、芝生の苗を育ててプレーパークの敷地に植えたり、枝が伸びきった植木のせんていなどをしてくれます。

はるプレでは、ここに集まる人たちが企画するさまざまなイベントも行っています。毎年海の日に行われる、はるプレ“誕生祭”や、乳幼児親子の外遊び応援イベントなど、身近で子どもたちの遊びにつながるようなイベントが企画されています。

今年の春、子どもたちの企画で行われたのは“商店街ごっこ”。このイベントでは、はるプレがひとつの“街”になりました。子どもたちが建てた小屋に看板が掲げられて「役所」になり、そこで住民登録をすると紙で作った“軍資金”がもらえます。それを使ってお店で買い物をしたり、ものを売ったりできます。
「商品は、最初はビー玉のアクセサリーやミサンガなど各自が手作りしたものにしようねと言っていたのですが、家にあったおもちゃやカードや本など、だんだん何でもありになってしまいました。」
みんなで楽しめれば、予定通りにならなくてもご愛きょう。
お母さんたちは最初こうしたイベントに受け身の立場でしたが、今は作っていく過程からみんなで楽しめるようになったのだそうです。

遊びの見守り役“プレーリーダー”

はるプレは木曜日以外の10時〜17時が開園時間で、いつも3人以上のプレーリーダーが常駐しています。プレーリーダーは子どもたちが安全に、より楽しく遊べるように見守ってくれる子どもたちのお兄さん、お姉さんのような存在。現在5人の若いプレーリーダーが活躍しています。

プレーリーダーになるには特別な資格はいりません。
公募で集められるメンバーは福祉、保育、教育、建築、造園、美術などいろいろな分野で活動してきた人たち。週に4、5日活動している人もいれば、週2日で他の仕事と兼業している人もいます。

写真関戸さん はるプレ開園時から6年間プレーリーダーを努めている関戸博樹さんは、学生の時に福祉を学びながら、子どもの遊びに関わるサークル活動をしていました。
プレーリーダーの役割について聞きました。
「子どもと接する時には、遊びの邪魔をしないように気をつけています。
大人は、子どもがうまく遊べるように「こうするといいよ」と教えてあげたくなっちゃうんですけど、『できる』ということだけが遊びではないですよね。その過程が大事なんです。本当に求められて必要な時だけ手助けするようにしています。」

写真小屋づくりをする子どもたち。基礎からすべて自分たちの手で 自由に遊ぶことができる反面、事故やケガにつながる危険も増えてきそうです。どのように対応しているのでしょうか。
「遊びの中にある“危険”について僕たちは2種類に分けて考えています。子どもにとって利益になる危なさを“リスク”、取り除かなければいけない危なさを“ハザード”と呼んでいます。
“リスク”とは、トンカチやのこぎりを使うこと、火を使うこと、高いところに登ることなど、子どもたち自身が『危ない』とわかりながらも楽しいからやっていることです。子どもは意外と慎重で自分の限界も知っているので無茶はしません。低いところから徐々に慣らして高いところに行けるようになります。“リスク”は乗り越えることで達成感を得られ、成長につながるものとして我々は側で見守るようにしています。
“ハザード”は、子ども自身が予測できない危険です。はるプレの遊具には梯子がありませんが、それは『高いところが危ない』と認識できない幼い子でも簡単に登れてしまうからです。そして、なぜ梯子が幼い子にとって危ないかということも、理解できる子どもたちには伝えています。」
はるプレの遊具を見ると確かに、枝をよじ登らなければならなかったり、ある程度の身長や力のある子でないと高いところに登れないようになっています。

こうした危険の見極めを大事にしているからか、すり傷や切り傷、打った、転んだなど小さなケガはあっても、病院へ行く程の大きなケガはほとんどないそうです。

「注意はしていても遊び場の作りに問題があってケガをすることもあるかもしれませんから、その場合の備えは考えています。子どもが自分の失敗によってケガをしてしまった場合には、なるべく理解の上で解決できるようにしています。
しかし大切なのは、形式的な対応を考えるよりもその場で痛がっている子どもの傷口をきちんと見てあげること、そしておうちの方と連絡を取り合うようにすることです。電話でケガをした子どもの様子を伺うと『うちの子もいい経験でした。また行かせます。』と言ってもらえます。」

はるプレのすべての入り口には、プレーパークという遊び場の基本的な考え方を示した看板を設置しています。

写真 「ここは『自分の責任で自由に遊ぶ』公園です。子どもたちが『やってみたい』を最大限カタチにするチャンスのある遊び場です。子どもたちが自由に遊ぶためには『事故は自分の責任』という考えが基本です。地域のおとなたちと渋谷区が協力してこのプレーパークをつくっています。こわれているところをみつけたり困ったことがあったらプレーリーダーやスタッフに伝えてください」

はるプレの運営をする「渋谷の遊び場を考える会」の代表・小水 映(こみず うつる)さんは
「遊びにくる人にはなるべくこの看板を見てもらって、『自分の責任で自由に遊ぶ』という考え方を理解していただいています。
万が一事故が起こった時にその場でどのように対応するかということは考えています。
例えば、現場にいる3人のプレーリーダーの役割を決めておくこと。一人はケガをした当事者に付き、一人は状況に合わせておうちの方や病院に連絡、もうひとりは全体の場をみます。
そして連絡体制をしっかりしておくこと。ケガの状況によって病院に行くべきかどうかはおうちの人と相談します。そして私たち“遊び場を考える会”に状況を報告。ひと通りのことが終わったら渋谷区にも報告します。」

子どもから学ぶこと

平日の昼間は幼児を連れたお母さんたちが多く見られます。15時ごろになると学校を終えた小学生たちもやってきます。
取材に訪れたこの日はまだ6月でしたが、子どもたちは元気に水遊び。土を堀りビニールシートで覆った小さなプールの中で、水をかけあっては大はしゃぎしていました。

写真 2歳5ヶ月の男の子のお母さんは、
「渋谷周辺では泥だらけになって遊べるようなところが他に無いので、なるべくここで遊ばせてあげたいとは思っています。どこに行っても室内が多くなってしまうので。
うちの子は今まで全然お友達と関わろうとしなかったのですが、ああやって水をかけ合うようになりました。」
服が汚れても、頭まで水に濡れても子どもたちは気にしません。元気に遊んでいる姿を見てお母さんたちもうれしそうです。

写真松岡さん そんなお母さんたちと一緒に、水遊びをする幼児たちを笑顔で見守っていた松岡聡美さんは、今年からプレーリーダーの活動を始めました。
「子どもと遊ぶのはとても楽しいですね。それまでは保育園で少し働いたり、家庭教師や障害者のホームヘルパーなどをやっていました。」

子どもたちの信頼も厚いプレーリーダー。みなさんそれぞれに活動の意義を感じています。
「お給料など待遇の面はなかなか十分とはいきません。でもやりがいがありますし、今自分がプレーリーダーとして頑張ることで社会にも少しずつ認めてもらえるようになると思っています。」

写真林さん 林 希栄子さんはプレーリーダーになって今年で5年、保育を学んでいた大学の授業でプレーパークのことを知ったそうです。
林さんは、子どもたちから学ぶことがたくさんあると言います。
「私はよく人からアウトドア派に見られますが、子どもの頃は全く違いました。集団遊びがすごく苦手で、家で人形遊びばかりしていた子どもだったんです。
ここに来て子どもたちにいろんな遊びを教えてもらっています。
木登りも最初はできなかったのですが、ある子が『がんばれ!できるよ!』って励ましてくれて。その子のおかげでできるようになりました。
また野球が好きな子に『キャッチボールしようよ』と誘われてちゅうちょしていたんですけど、いざやってみたらすごく楽しくて。
“うまくやらなきゃいけない”という意識を無くして楽しめばいいんだ、と思えるようになると何でも楽しくなります。小さなことでも喜べる。そうした感性が子どもたちと遊ぶことで開いたのは私の宝物だったと思います。」

この日はるプレで出会った人は、子どもたちも、お母さんも、プレーリーダーもみんな表情がいきいきとしていて、とても楽しそうでした。

2010年7月6日掲載  取材:小保形


Copyright 2006 NHK Public Welfare Organization. All rights reserved.
許可なく転載することを禁じます。