ボラ仲間の活動リポート
スペースを広くとり手すりをつけたトイレ
旅行先で利用できるトイレが見つからなくて困った。みなさんもそんな経験はありませんか?
身体に障害のある人や高齢の人、けがをしている人にとって、外出でのトイレは深刻な悩みの種です。外出自体をためらうことにもなりかねません。
外出先のトイレの心配を解消する「トイレマップ」
「Check A Toilet みんなでつくるユニバーサルデザイントイレマップ」 こうした悩みを解消しようと2006年に立ち上がったのがCheck A Toilet Projectです。翌年には日本全国の多機能トイレの情報を集めたサイト「Check A Toilet みんなでつくるユニバーサルデザイントイレマップ」を開設しました。トイレ検索から住所などを入力すれば、地図から多機能トイレの場所を事前に調べることができます。2008年にはNPOとして活動を本格化しました。
手すりの設置、段差をなくすなどバリアフリーの対応や、トイレ内のスペース拡大、ベビーシートなど、さまざまな配慮が施された「多機能トイレ」の設置は広がっていますが、現状では全ての場所や建物に設置されているわけではありません。
「障害者や高齢者が気がねなく外出できる社会を目指したい」と代表の金子健二さんは語ります。
金子さんは以前、旅行会社に勤めていました。障害者や高齢者の旅行の手配や、添乗員として旅行に同行する中で、現在の活動につながる苦労をされたようです。
手すりやベビーキープなどを備えたトイレ(京王百貨店 新宿店)
「旅行先のトイレの設置場所や設備についての情報を集めるのは大変でした。」
トイレの情報をまとめている自治体も少なく、旅行会社間の情報共有もされておらず、旅行前に現地へ下見に行くことも多かったそうです。
「みんなで情報を集めて共有すれば、手間も時間もかからずより多くの人が旅行に行ける。」
そんな思いからトイレマップの作成をスタートしました。
各地の自治体、ボランティア団体、交通機関や商業施設などからトイレの情報をもらうことから始めたそうですが、その道のりはなかなか険しいものだったようです。
「いろいろな団体に会いに行って情報提供をお願いしました。趣旨を話すと快く協力してくれるところもあれば腰が重いところもあって、『検討します』と言ったまま進めてもらえないこともありました。」
金子さんが集めた各地のトイレ情報
それぞれ独自に作られているため、調査項目はバラバラ
苦労しながら集めてきたトイレ情報は紙に印刷されたものがほとんどだったので、金子さんは次に、情報をひとつひとつデータ化していく作業にかかりました。
各団体のものを見比べて気づいたのが『トイレマップ』、『バリアフリーマップ』、『子育てマップ』などそれぞれの団体が独自に作っているため、調査項目にバラつきがあるということでした。《多機能トイレ・手すり・授乳室あり》と設備について詳しく書かれているマップもあれば、多機能トイレの《あり・なし》しか書かれていないマップも少なくありません。「障害当事者の意見を聞いて作っていないケースが多いのだろうな」と感じたそうです。
地道に活動を続けてきて、現在の多機能トイレの登録件数はおよそ2万8千件。金子さんは今年の目標は5万件としています。
他のサイトとの連携も進めており、インターネット上のいくつかの地図サービスからもトイレ情報を検索できるようになりました。より多くの情報を集め、より多くの人にサイトを役立ててもらう為に、サイトのPR活動に日夜一人で励んでいらっしゃるようです。
情報提供は手軽にできるボランティア
トイレチェックについて説明する金子さんそんな中、企業ボランティアとの取り組みも行われました。
2007年、(株)資生堂の社内ボランティアと自立生活センター「自立の魂(じりたま)」の方々が協力し、横浜みなとみらい地区を歩いてトイレチェックを行いました。
イベントでは車いすの扱い方や介助の仕方についても確認「じりたま」は、障害者の社会参加を目指して横浜市で活動している障害当事者の団体です。
企業との出会いについてお聞きすると「地元の知り合いが資生堂で働いており、CSR担当の方を紹介してくれたことでトイレチェック活動が実現しました。そして、障害当事者の方にも参加していただくために活動しやすい地区を探したところ、天候やバリアフリー面から「みなとみらい」に決まりました。」
車いすで参加した「じりたま」の方からは「病気や障害のある人、高齢の人が一般のトイレが使えないことは、社会参加をする上で非常に問題があります。多機能トイレを利用する当事者として改めて重要性を実感できました」といった声をいただいたそうです。
金子さんが今後進めようと考えているのが、トイレチェック活動に携帯電話を使う新しい仕組みと、それを広めるためのイベントです。
「携帯電話のカメラ機能で写真を撮って、サイトに登録してもらう。写真の情報は、トイレの広さや設備の取り付け位置、さらに清潔さなど雰囲気もわかるとても有効な情報です。」
最近普及している新型の携帯電話を使ってトイレの外観や位置など詳細な情報を簡単に登録できるようになれば、誰でも手軽に、むしろ楽しみながら参加できる活動として広まるかもしれません。
さらに金子さんは、「定期的な情報の更新も重要です。行ってみたらトイレがなくなっていた、というのでは困りますから。」
やはり多くの人の協力があってこそ充実していく活動と言えるでしょう。そのためにどのように普及させていくか、金子さんの挑戦は続きます。
誰もが自由に外出できる社会を
「実際に多機能トイレを利用している方から、トイレの使い勝手の悪さを指摘する声が届くこともあります。」トイレ設備の充実は費用がかかる問題でもありますが、必要としている人がいるからこそ国にももっと力を入れてほしいと感じているようです。
「誰もが自由に外出できる社会を目指しています。」
熱意を持って活動に取り組んでいる金子さんの姿が印象的でした。
取材 小保形