ボラ仲間の活動リポート
安全で手触りのいい布のおもちゃ。引っ張ったり、投げたり、蹴ったり、結んだり、丸めたり、いろいろな遊び方ができます。遊びを通して全身を動かしたり、手先を細かく動かしたり、運動能力を養うのに役立つそうです。
布のおもちゃを長年にわたって手作りをしているグループがあります。
東京都世田谷区で活動しているTOY工房どんぐりです。
週3回ほど世田谷ボランティア協会が運営する代田ボランティアビューローに場所を借りて活動しています。メンバーのみなさんは作業台に向かってはさみや、針や、ミシンをフル稼働させていますが、楽しいおしゃべりをしながらのとても和やかな雰囲気。
これまで100種類以上のおもちゃを作ってきました。
使う人が本当に欲しいと思うおもちゃを
「3びきのこぶた」の布絵本。こぶたやおおかみの人形をうごかして遊べるようになっている。TOY工房どんぐりの活動が始まったのは1983年。
最初は、障害のある子どもたちのために布の絵本やタペストリーを手作りして、おもちゃの貸し出しをするおもちゃ図書館などに寄贈していました。
活動の回数を重ねていくうちに「オリジナルのおもちゃも作ろう」と、さまざまなアイデアおもちゃが誕生しました。
現在は依頼を受けてから製作し、おもちゃの材料費分の価格で提供しています。
「使う人が本当に欲しいと思うおもちゃを提供したいのですが、無償だともらう側にも遠慮が出て注文を付けづらくなります。今は材料費をいただくかわりに、遠慮なく要望を言ってもらいます。私たちにもより良いものを作ろうという気持ちが生まれます」と、代表の河村豊子さん。
おもちゃは、養護学校、保育園や幼稚園、小学校の特別支援学級などさまざまなところで使われています。
TOY工房どんぐり代表の河村さん。なぜ、障害のある子に「手作りの布おもちゃ」がよいのかを河村さんに尋ねると、
「子どもたちは遊びや生活の中で、さまざまなハードルを一歩ずつクリアして成長します。障害のある子には、一般のおもちゃや教材ではそのハードルの一歩がとても高いことがあるんです。それを一歩ずつクリアできるようにお手伝いするのがどんぐりの活動だと思っています。手作りなので、使う子に合わせておもちゃのデザインや素材など柔軟に対応できるんです。」
現場の先生からも「他の教材に比べて子どもたちが受け入れやすい」という喜びの声があったそうです。
「布の柔らかさや温もりも、感じてもらえているのかもしれませんね。」
一見シンプルでも、遊びの可能性が詰まっている
花や雪などのパーツを付け替えて四季を楽しめるカレンダー。製作を重ねて行くうちに、おもちゃの質の向上にも積極的に取り組んでいったそうです。その為には、おもちゃで遊ぶ子どもたちのことを一番よく見ている先生や保護者の意見は欠かせません。
ジャンケンサイコロ。ジャンケンが苦手な子でも、後だしを気にせず遊べるように。
「盲学校の先生から『音が鳴るとうれしい』と意見をもらって鈴を入れたり、『口に入れると危ない』ということで付属のボタンを取ったり、ひとつのおもちゃでもどんどん改良していきます。」
また、使い勝手の良さだけでなく時代に合わせた変化も必要なのだとか。
「歩行者用信号機を理解するためのおもちゃは、最近の発光ダイオード信号機のデザインも新しく作ったりしました。若いお母さんの意見を参考にしてデザインや素材も今の子どもたちの好みや習慣に合わせています。」
面ファスナーでさおに魚がくっつくようにできている。魚の中には鈴を入れて、釣り上げると音が鳴る。年齢や障害に合わせたたくさんのおもちゃがある中で、一番人気は「さかなつり。」
「糸がない釣りざおなので魚を釣るのは難しくありませんが、子どもたちには達成感が得られるようなんです。先生が「赤い魚だけを釣ってね」とか、「釣った魚は何匹?」と呼びかけてあげれば、色や数の学習にも発展できます」と河村さん。
一見シンプルなおもちゃも、いろいろな遊びの可能性が詰まっているようです。
子どもたちが楽しく安全に遊べることが一番
作業中のボランティアの皆さん口コミなどで集まったどんぐりのメンバーはみなさんボランティア。現在20名ほどが参加しており、活動歴二十数年の人から、最近始めたばかりという人までさまざま。デザイン、縫製、それぞれ得意なことを分担することでおもちゃの質を保っているのだとか。
作業所に通う障害者の方々にも綿詰めの作業を手伝ってもらっています。小学生や大学生のボランティアも参加しています。
活動15年の佐藤さんは養護学校で働く娘さんからの勧めで参加を始めたそうです。
「ボランティアをしているというより、いつの間にか自分の生活の一部になっていて、社会と繋がっていられることが良いんです。上下関係なくみんなで意見が言い合えるから長く続けられるのかな。」
的当ても人気のおもちゃ。玉入れや、サッカー、野球など絵柄の種類もいろいろ。新作のおもちゃを作るときも、ひとりの人が出したアイデアに対してみんなで意見を言い合って形にしていきます。アイデアが良くても、重すぎたり壊れやすかったりすればだめ。これまで試作しても製品として出せなかったものもたくさんあるそうです。
また、メンバー内でよく確認し合うことは「おもちゃのアイデアや技術をまねされるのは構わない。自分たちより安くていいおもちゃが提供できるのであればその方がいい。でも、安全性の配慮などを怠った粗悪品が出まわるようなことだけは困る」ということ。
「子どもたちが楽しく安全に遊べることが一番大事」だと、みなさんが共通の思いを持っているようでした。
子どもたちのために
大勢の子どもたちへの読み聞かせは、お話エプロンにさまざまなパーツを付けて。どんぐりはおもちゃの製作の他、イベント参加や海外へおもちゃの寄贈など活動の場を広げています。
活動20周年の時にはおもちゃの展示イベントも開催しました。布絵本の読み聞かせコーナーは、子どもたちに大人気。
「今年の8月後半に展示会ができることになりました。是非遊びにいらしてください」と、笑顔の河村さん。
「子どもたちのために」これからも活動は続いていくようです。
取材 小保形