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インタビュー

2008年8月 4日

写真:泳いでいる かわい選手 〈パラリンピック・水泳選手〉
河合 純一(かわい じゅんいち)さん


日本の障害者スポーツを変えたい。だから泳ぎ続けるんです。

水泳の河合 純一選手(33歳)は、1998年、日本で初めての全盲の教師となり注目を集めました。今年の3月まで静岡県浜松市の中学校で教べんを執っていました。先天性の病気のため生まれつき左目の視力がなく、中学3年生のときに右目の視力も失います。それでも好きだった水泳を続け、盲学校の高等部にいた1992年、バルセロナ大会に初出場。自由形で銀メダル2つを獲得します。以来、今年の北京大会を含めてパラリンピックに5大会連続の出場。これまでに獲得したメダルは金メダル5個を含めて19個。20個目の獲得を目指します。


Q.練習を見ました。まったく見えないのになぜまっすぐに泳げるんですか?

河合:いつもまっすぐに泳ごうと意識して練習していますから、積み重ねで出来るようになったんですよ。やっぱり初めから出来たわけではなくって、右目も見えなくなりはじめた時には、どうなってしまうんだろうって思いましたよ。でも水泳を止めようとは思わなかった。だから一生懸命練習はしました。今でもその日の調子によってはジグザグに泳いでしまうこともあるんですけどね(笑)。でも、いつも意識することがとても大切で、それが試合のときに無意識に出来るときがあるんです。そういうときは強いんですよ。

Q.他にも練習で気を付けていることはありますか?

河合:ストレッチをして体を伸ばしておくことです。ささいなことなんですけど、体を伸ばすか伸ばさないかで、水の中に入る腕の位置が違ってくるんです。例えば、僕の場合は25メートル泳ぐのであれば17回くらい水をかくんですけど、いつもよりも腕の入る位置が1センチ短くなっていると、17センチ違ってくるわけですよ。これが50メートルになれば34センチくらいのずれになるわけで、その分だけタイムが遅くなりますし、水をかく回数も増えて疲れてしまいます。だから練習中は回数を数えながら、いつでもストレッチをする。そして自分の中の一番いい泳ぎっていうのを体に覚えこませてるんですよ。

Q.出場し続けるには秘けつがあるのでは?

写真:インタビューにこたえる河合選手。この4月より静岡県総合教育センターで、特別支援教育のサポートに従事しながら、メダルを目指す 河合:秘けつということではないけれども、まだまだ記録を縮められるんじゃないかって思ってます。4月から静岡県の総合教育センターに異動したので仕事や練習環境、そして年齢のことも含めてたいへんにはなるんです。若手の選手も伸びてきて、世界のレベルも上がっている。でも勝負って最終的には、体力、技術力、精神力、それに体調管理などいろんな要素があって、トータルで決まるものですよね。私には若い選手にはないこれまでの経験がある。それをうまく活用していけば、まだまだ勝負できるんじゃないかなって思いがあります。
それともうひとつ思ってることがあって、このままの状態では日本の障害者スポーツをとりまく環境がますます悪くなるだろうという危機感をもっている。だから頑張ろうという気になるんですよね。

Q.障害者スポーツに危機を感じている?

河合:日本の障害者スポーツは、1998年の長野での冬季パラリンピックを機に大きく変わったと思うんです。10年前と比べると選手のレベルは確実に進化してる。マスコミに取り上げられることも増えたし、オリンピックの選手とパラリンピックの選手が同じユニフォームを着れるようになったり、見た目の変化もいろいろあった。でも、国際的な視点で見ると、取り残された印象を持つんですよね。

Q.なぜ、取り残されていると感じるんですか?

河合:例えば、パラリンピック自体は国費で行かれるんですけども、出場権を取るための海外遠征などは自費なんですよ。補助金が出たる場合もあるんですけど、競技種目によって額が違ったり。でも世界を見れば、国によっては国自体が全面的にサポートしていたり、企業が社会貢献活動の一環としてきちんとサポートしていたりする。そういう形で障害者スポーツが発展しているんです。日本にもありますけど、ほんとに少しですよ。そんな中で日本の選手たちは自分たちでいろんな工夫をして、すごく努力をして結果を残しているんですよ。そんな国の現状を変えたいと思ってるんです。

Q.自分の姿を見せることで変えていきたい?

河合:ぼくが頑張ることにどれほどの効果があるかはわかりません。けれども、いてもたってもいられないんですよね。だからこそ、出場し続けることで何かのきっかけになれればと思っているんです。

視覚障害のある水泳選手は、障害の程度が重い順に、B1からB3までのクラスに分かれます。全盲の河合選手はB1クラスの選手です。B1クラスは光を完全に遮断するゴーグルの着用が義務付けられています。全盲でも程度の差があり、光をわかる選手もいるためです。