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インタビュー

2007年10月30日

手話で話している早瀬さん

〈早瀬道場 塾長〉
早瀬 憲太郎(はやせ けんたろう)さん

日本語は面白い、表現することは楽しい。ろう児がそう思える授業を

今年の4月より「NHKみんなの手話」の講師を務めている早瀬憲太郎さん(34歳)。
ご自身もろう者である早瀬さんは、ろう児のための学習塾「早瀬道場」を経営しています。その他、ろう児が集まるフリースクールを立ち上げるなど、子どもの教育に熱心に取り組んでいます。五反田(東京都)にある道場を訪ねました。


Q.塾を開こうと思ったきっかけは?

早瀬:学校が終わった後でも、もっと勉強したいというろう児のために手話という言語を使って教科学習を行う塾を作りたかったんです。聞こえる子どもの塾はあちらこちらにありますが、ろう児のための塾はほとんどなかったんですね。10年前から自宅で始めたのですが、今は五反田で教室をかまえました。当初はいろいろな教科を教えていましたが、今は日本語や国語教科にしぼって教えています。

Q.日本語を中心に教えるようになったのはなぜですか?

早瀬:日本語のもつあいまいさ、情緒、など素晴らしい魅力的な言葉を、ろう児にぜひ知ってほしいという気持ちがまず一番にあります。聞こえる人の場合、日本語は生まれた時から自然に耳に入ってきます。それから国語という教科につながっていくわけですが、ろう児の場合、耳から日本語が入ってきません。聴覚は使えないわけで聞こえる子と比べて日本語の習得に2倍も3倍も時間がかかります。耳が聞こえないからこそ一生懸命日本語を教えようとすると、ろう児にとって日本語は勉強しなければならないもの、苦痛なものという意識がついてしまうんですよね。ろう児にとってまずは手話という言語があります。手話で充分にコミュニケーションをとりながら日本語の魅力をつたえていくことが、ろう児にとって一番スムーズに日本語に触れていけると考えています。

塾の授業の様子。手話で会話をしながら日本語を覚えていく

Q.ろうの方は、日本語の微妙なニュアンス、字では表せない意味をとらえるのは難しいのですか?

早瀬:今、塾には幼児から高校生までの子が来ていますが、成人のろう者も来ています。最近は仕事でメールでのやりとりが増えて、日本語でコミュニケーションを取る機会も非常に多くなりました。ろう者にとって日本語の読み書き能力が最も問われる時代になったと思います。そうすると日本語のニュアンスや語彙、敬語の使い方が難しく、誤解や行き違いなどが起きて困っているろう者がたくさんいるわけです。たとえば、「風当たりが強い」という言葉を、文字通りすごく強い風が来るというイメージでとらえてしまうケースがあります。みなさん勉強ができないとか言語力や思考力がないというわけではありません。
日本語をきちんと習得していないだけです。手話で説明するとすぐに意味を理解します。
外国人が母国語で日本語を学ぶのと同じように、ろう者にとって手話で日本語を学ぶ場が必要です。日本語は面白い、日本語の表現は楽しいと思えるような塾でありたいと思っています。

Q.日本語を教えるには、そうとう勉強しないと難しいと思うのですが、どのように習得していったのですか?

早瀬:僕は本から日本語を学びました。だからだと思うのですが、いろんな人からよくメールの文章が硬いと言われるんですね。話し言葉と書き言葉がごちゃごちゃになってるみたいで、普通言わないような難しい言葉をメールとかで使うみたいです。ですから、本当の意味でネイティブな日本語、コミュニケーションで使う日本語とはちょっと違うかもしれません。会話の中での微妙な言い回しとかは、どうしても耳から得ることはできないので。最近、テレビの字幕の技術がすごく進んでいます。以前だと、例えば島田紳助さんが、「今日はね〜やっと来てくれはりましたよ。なんていうか、まあ有名らしい人ですよ。多分・・・」と言ったことを、字幕では「今日は有名な方が来ました」とまとめて表示されてました。今は本人が言ったとおりに字幕で出てきますから、聞こえる人のリアルな会話を、目で見て理解できるようになってとても勉強になります。

Q.教えていて、よかったと思えることはありますか?

早瀬:子どもからもらった手紙を読んで、日本語がきちっとしていて文章がじょうずになっていたり、「本好きになったよ」とか、「最近、俳句が好きになった」とか言われると、とってもうれしくなります。日本語が面白い楽しい、書くことが楽しいというふうに目を輝かせてもらったときが一番うれしいです。

みんなの手話の出演者:右から早瀬さん、林家正蔵さん(落語家)、小椋英子さん(手話通訳士)

早瀬憲太郎さんの出演している「みんなの手話」では、半年間で基本的な手話について学ぶことができます。10月から3月までの期間は、4月から9月まで放送した番組の再放送です。土曜日の午後8時から8時25分、教育テレビにて放送しています。動きが大きく表情豊かでとてもわかりやすい早瀬さんの手話付きで学ぶことができます。詳しくはNHKみんなの手話のホームページをご覧ください。別ウインドウが開きます。