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インタビュー

2007年6月25日

近影・太田さん

〈若年認知症の本人〉
太田 正博(おおた まさひろ)さん

できることは精一杯やろう、
できないことは助けてもらおう。

太田正博さん(57歳)は、長崎県職員として児童相談所に勤めていた53歳のとき、アルツハイマー型の認知症と診断されました。65歳未満で発症する「若年認知症」です。
今では、日によって自分の名前を書けなくなることもあるということですが、当事者の思いを伝えるために、主治医や作業療法士と3人で講演活動を全国各地で行っています。


Q.講演活動をされるきっかけは?

太田:告知をしてもらったときに、私、今から何ができるんだろうか、もうこれ以上なんもできないんじゃなかろうかという思いがありましたよ。でも、先生方が、「今こういうことがあって、これからこうするね」とか、いっぱい話してもらったんです。うまーく包んでもらえた。いろんな方が関わっていただけてるっていうのがあって、すごく元気になれた。誰かに支えていってもらってるんだなあって、すごく感じたんです。だからなんかさせてくださいってことを先生に相談したんですよ。

Q.相談をしたら、講演をしませんかと誘われたのですね。そのときはどう思われましたか?

太田:先生、ぜひ講演しましょう、講演させてください。そういう気持ちやったですよ。人前に出て伝えたいっていう気持ちですよ。

講演をする太田さんと主治医

Q.伝えたい思いとは、どんなことですか?

太田:私なんかは、うまくできないこと、それが一番不安なんです。記憶がもうほとんどないもんですから、私いま何をしてたんだっけとかね、忘れてしまって、さっさっさっさっとやるということがね、できないんです。そんなふうに困ってる方がたくさんいらっしゃるでしょう。そういう方も一緒に、なんかできることがあればいいのになっていうのがずっとあるんです、あるんですよ。できないことがあっても、私は今までいろんな人に助けられて、いろんなことができた。だからね、私はみなさんと一緒に助け合いたいと。助け合って、もっともっとうまく生活ができるようになる方法をね、生んでいければいいかなと。

Q.うまく生活できるようになる方法とは?

太田:自分でいろんなことをやってもやっぱできないから、いろんな人に手伝ってもらうしかない。だからね、いろんなものをね、抱え込まないんですよ。いま自分ができることだけを精一杯やる。1人じゃできないんだから、みんなでやろうよ。みんなでやったらもっともっとね、楽に生活できて元気になれるよ。そういうメッセージがお客さんに伝わっていったらと思ってるんです。

Q.友人や近所の人などに「手伝ってほしい」と言うのも勇気が要りそうですね。

太田:確かにそうです。でも、自分から動かないと何も始まらない。まず自分を見せる。見せて、実は私こうなんですよ、こんなことしかできないんだけれども、今できることはちょっとはあるんですよ。それを言う。それで楽になれる。元気になれる。話さないとわからないですよ。だまっとったら、もう全然なんもならんですよ。だから必要だと思ったら、話しかけないと。そんなのがすきっとする、私としては気持ちが。できることはやろうや、できなかったら助けてもらう。お願いしますっていうことが言えるかどうか。やっぱり会話をしないと変わっていかないですよ。

Q.今後も講演を続けていきたいですか?

太田:はい。講演自体楽しい。誰かと話せることがね、すごく楽しいんですよ。講演が終わって、おばあちゃんたちがきてね、手を離さなかったことがあるんです。「本当に楽しそうに笑ってる太田さんと会えて励まされました。ありがとう、ありがとう」いってね。離さなかったんですよ、手を。ほんとうれしかったですね。「ありがとう」と言っていただけるお客さんがおられると、こっちもうれしくなって元気がでる。最近、トーンがどんどん落ちてってるような感じがしてるんです。気分ゆうか、そういうのが。私がぼーっとしたらもうだめです。ドーンと落ちる可能性があるんですよ、あるんです。それがすごい怖い。だからね、誰かといて話すことが一番いい。だから、出来る範囲でね、講演をさせていただければね、ありがたいと思ってます。

デイケアで塗り絵に取り組む太田さん。脳を刺激し、活性化する訓練のひとつ

太田さんの講演の題は「認知症と明るく生きる」。3人でやる講演はやりとりが漫才のようで、会場からの笑いも絶えないそうです。お話のほかに、必ず歌うのが布施明さんが歌った「マイウェイ」。 講演のほかにも、思いを伝えるためにNHKの福祉関連の番組に出演した人々のブログ「ハートネットピープル」に、日々の出来事、自分自身の変化などをつづっています。詳しいことはNHKハートネットをご覧ください。別ウインドウが開きます。