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インタビュー

2007年3月15日

写真:左に梅木久代さん。右に夫の好彦さん。好彦さんの手話を、久代さんが触って読み取る。

(「京都盲ろう者 ほほえみの会」会長)
梅木 久代(うめき ひさよ)さん

見えなくても聞こえなくても
生きていくことはすばらしいです

NHK厚生文化事業団では、毎年、地域に根ざした福祉活動を実施する団体に「わかば基金」から支援金を贈呈しています。去年、支援した団体の1つが、視覚と聴覚の両方に障害のある人の団体、「京都盲ろう者「ほほえみの会」です。この会の会長の梅木久代さん(57歳)ご自身も盲ろう者。メンバーとサポーター30人が参加した交流会の会場に、梅木さんを訪ねました。


Q.今日の交流会は、京都の銘菓を作る体験です。みなさん真剣に生地を伸ばしたりあんを包んだりしていますが、その作り方を伝えるために、盲ろう者1人に1人ずつサポーターが付いていますね。

梅木:はい。私たちは「通訳介助者」と呼んでいます。盲ろう者は、手話を見ることができませんし、話を聞くこともできません。手で手話に触ったり(触手話)、6本の指を軽くたたいてもらったり(指点字)して、相手が言うことを理解します。触手話や指点字で通訳しながら盲ろう者の行動を助けてくれる人が「通訳介助者」で、私たちの活動になくてはならない人たちです。

写真:通訳介助者とともに、銘菓作りを体験するほほえみの会のみなさん

Q.梅木さんご自身は、2歳のときに病気で聞こえなくなり、30代になってからだんだんと視力が落ちてきたということですが、その頃、触手話は?

梅木: まったく知りませんでした。その頃、私のコミュニケーション方法は口話だけでした。相手の口の動きを見て、言っていることを読み取るんです。だから、見えなくなってきて、口が読み取れなくて困りました。いらいらいらいらしてましたね。母が亡くなりましたし、主人とは離婚し、2人の子どもはまだ小さい。子どもとは話が通じない。このまま生きていけるか、だんだん心配になってきて、死んだ方が楽だなあという気持ちになっていました。

Q.立ち直るきっかけになったのは?

梅木: 当時は大阪に住んでいて、盲人福祉センターで点字を勉強していました。そこで「大阪盲ろう者友の会」のことを教えてもらったんです。はじめて友の会に行ったときは、びっくりしましたよ。盲ろう者が私の手に触れてきたんです。そこではじめて触手話を知りました。触手話を使えば盲ろう者も自由におしゃべりできるとわかって、一生懸命覚えました。おしゃべりできるということが、もう楽しくて楽しくて。生きていくことはすばらしいことだ、と思うようになりましたねえ。

Q.生きていくことはすばらしい・・・触手話を知ったことで、そう思うようになった?

梅木: コミュニケーション手段があります、友だちがいます、支えてくれる人たちが周りにいます。それまで、見えなくなって楽しいことが何もなかった。そうじゃない。見えなくても聞こえなくても活動できるし、通訳介助者を通して情報ももらえるし、外出の手助けもしてもらえる。生きていることはありがたいと思えるようになったんです。

写真:点字プリンタを好彦さんが操作する。電話やファクスが使えない盲ろう者への連絡に点字プリンタは活躍しています。

Q.「京都盲ろう者 ほほえみの会」を立ち上げたのも、そんな気持ちからですか?

梅木: そうです。長男夫婦といっしょに京都に引っ越したのですが、そのとき、京都には友の会がなかったんです。京都にも、私と同じように苦しかった人がたくさんいるはずです。ひとりぼっちで苦しまずに、みんなが交流して社会参加できるようにしたいと思いました。その後、京都で通訳してくれた今の夫と結婚しましたが、夫も友の会が必要だと言ってくれて、事務局長を引き受けてくれました。事務局は自宅にして、「ほほえみの会」を立ち上げました。盲ろう者がどんなにたいへんか、通訳介助者がどんなに必要か、ということを頑張って訴えて、通訳介助者を増やしてきました。

Q.これから「ほほえみの会」でやってみたいことは?

梅木: いろんなことをしたいですね。来月の交流会はフライングディスクを楽しむんですよ。どうやるのか私も知りませんが、前にグランドゴルフをやったときは、通訳者に右とか左とか教えてもらったり、離れた!とか残念!とか言ってもらったり。通訳者が目の代わりになってくれれば、スポーツも楽しめます。私はスポーツよりも、編み物や料理の方が好きですけど(笑い)。
それから、盲ろう者が集まる憩いの場がほしいです。今のように月1、2回集まるだけではなくて、いつ行っても仲間がいる、いつ行っても通訳介助者がいる、そんな場所が欲しい。仕事をしたり、料理をしたり、情報をもらったり、やりたいことをして過ごせたら、毎日がもっと楽しくなると思うんですよ。ぜひ実現させたいですね。

「ほほえみの会」ができて、今年で5年目。会員は106人(内、盲ろう者28人)、登録している通訳介助者は108人いるそうです。
「ほほえみの会」のような盲ろう者友の会は、2007年3月現在、全国38都道府県にあります。詳しいことは、全国盲ろう者協会(電話03-3512-5056)にお尋ねください。