2006年12月15日
〈第41回 NHK障害福祉賞 最優秀受賞〉
横田 真司(よこた しんじ)さん
知的障害のある人との共同生活で、
いろいろ教えられました
障害のある人や障害者とともに歩んでいる人から、体験記録を募集する「NHK障害福祉賞」の今年度の受賞者が決まりました。41回を迎えた今回、最優秀に選ばれたのは、 横田真司さん(48歳)の作品「いとしい日々」です。現在、足立区障害福祉センター(東京)に勤める横田さんは、33歳のときから10年間、妻や子どもといっしょに知的障害のある人が暮らす生活寮に住み込み、その体験を作品につづりました。
Q.知的障害のある人たちとの共同生活はどのように始まったのですか?
横田:妻は元々、台東区(東京都)の障害者施設に勤めていたのですが、出産を期に辞めて、妻の実家に近い、茨城県に引っ越しました。しばらくして、妻に「生活寮ができるから、寮母さんやらない?」と知人から声がかかりました。妻とは、よく「いつか障害のある人と暮らしたいね」と話をしていたので、すぐに賛成しました。子どもたちにも説明し、茨城から台東区に戻ってきました。
Q.生活寮とはどのようなところなのですか?
横田:障害のある人が暮らす共同住居です。生活寮で朝ごはんを食べて、作業所などに出勤し昼間は仕事をして、夜、また生活寮に帰ります。寮母が一緒に暮らして、食事の準備や、掃除、洗濯など日常生活の援助を行います。土日は寮母が休みなので、私が代わりに掃除や洗濯をやったりしました。
私たちの寮には、タカハシさん、エッちゃん、ケイコさん、タブチくんの4人が暮らしていました。年齢は20代から50代まで、みんな個性的な人たちでした。自閉的な傾向がある人もいれば、常時てんかん発作の心配がある人もいました。食事中にてんかんの発作を起こすとみそ汁のお椀を落としたりするので、隣で食べている娘は、気が気でなかったようです。かかえている問題も、性格も、それぞれまちまちでしたが、みんなそんな自分を惜しげもなく素直に出してくれていました。
Q.横田さんのお子さんは、共同生活をどう受け止めていました?
横田:生活寮に来たとき、上の子が5歳、下の子が3歳でした。かなり戸惑ったようですね。下の娘は、「普通の生活がしたい」なんて言ったこともありました。
でも、下の娘のために、エッちゃんが、風船をお土産に持ってきてくれたことがあるんですよ。うちの娘が風船で遊ぶのが大好きなのを、知っていたんですね。風船をもらった娘は、うれしくてはしゃいでいましたが、その娘を見るエッちゃんが、とっても誇らしげな表情をしているんです。「小さい子どもが生活の中にいる」ということは、彼らにとっても刺激になっていたようで、自分が守ってあげようという母性が働いたのでしょう。自分たちはお世話になるばかりじゃない、お世話もできるんだという自信も芽生えたんじゃないでしょうか。
Q.10年間の共同生活で一番印象に残っていることはどんなことですか?
横田:作品にも書きましたが、4人を連れて上野公園にお花見に行ったときのことです。不忍池のほとりをゆったりと歩きながら、4人がお天気について話していました。「今日はいい天気だね」「明日はどうかな」「明日もいいんじゃない」「あさってはどうかな」「あさってはそろそろ崩れるんじゃない」。そんな天気の話を長々としているんですよ。そんな会話を聞いているうちに私は心の底からゆったりしてきました。思わず笑顔になって。欲も得もない、とでも言うんでしょうかねえ。自分の心が4人によってきれいにされたと感じられたのが、このときでしたね。
Q.生活寮を出られた後も、知的障害のある人たちとかかわるお仕事をされていますね。
横田:今、勤めているのは、障害福祉センターの中の知的障害者更生施設で、一人一人の利用者が豊かな地域生活を送れるよういろいろな支援をしています。朝の出迎えから、散歩の付き添い、給食の配膳、トイレ介助までいろいろやっています。毎日いろんなことが起きて、今の仕事も楽しいですよ。
4人と共同生活をして、立派なことをしようとか、大したことをしようと頑張る必要はないんだ、それよりも、一日一日を穏やかな心持ちで生活することが大事なんだと思うようになりました。それが今の自分の仕事にも生かせているんじゃないかなと思っています。
Q.もう一度、共同生活の話が舞い込んできたらどうされますか?
横田:はい。二つ返事で引き受けます。