一歩前へ!会社と社員の社会貢献
増える法人のカード利用とポイントの悩み
クレジットカードを利用したときにたまる“ポイント”。たまるといろいろな特典や割引が受けられます。こういったポイントサービスが、私たちにとって身近なものになっています。
近年では企業などの組織でも、法人用の“コーポレートカード”を利用するところが増えてきました。コーポレートカードを利用することで、社員が出張や接待などの業務を行う際に、現金の仮払い申請や経費の清算などの作業を軽減することができます。また、文房具の購買などでも、銀行振り込みをコーポレートカードでの支払いに切り替えれば、振り込みにかかる手数料が不要になって経費削減することもできます。
こういったメリットがある一方で、コーポレートカードのポイントをどう利用するか、頭を悩ませている会社もあるようです。多くの会社では福利厚生費にあてられるそうですが、「扱いが難しい」「管理するのが面倒」などの理由で、ポイントを使わないでそのままになっていることも多いということです。
コーポレートカードのポイントで社会貢献を
京都府社会福祉協議会が配布しているチラシこうした企業の“コーポレートカードのポイント”に関する悩みを解決する、新しい取り組みが始まっています。京都府社会福祉協議会が中心となって企画・運営している“きょうとハート基金”です。
この基金が運用する“きょうと福祉救援コーポレートカード”は、ポイントを自動的に積み立てて、福祉施設に助成できる仕組みになっています。そのため、発生したポイントを企業が管理する手間がなく、しかもコーポレートカードを作るだけなので社員への負担もなく、社会貢献に有効活用できるというわけです。
また、この仕組みでは、企業の規模や業種も問いません。積み立てたポイントは災害時に福祉施設に助成され、被災して使えなくなった備品の買い替えなどに利用されます。
この“きょうと福祉救援コーポレートカード”で支払いをすると、利用額の0.3〜0.5%相当のポイントが発生し、自動的に“きょうとハート基金”に積み立てられます。
口座引落や振込みをしている会社の光熱費、通信費、オフィス用品の代金なども、コーポレートカードでの決済に変更すれば、支払いをするだけでポイントが寄付できます。
また、福祉施設自体がこのコーポレートカードを持つこともできます。
発案のきっかけは平成16年の台風災害
この“きょうとハート基金”を企画・運営しているのは、京都府社会福祉協議会の「きょうと福祉パートナー事業推進チーム」です。
このチームでは、企業の本業を生かしたCSRと福祉施設のノウハウを結びつけた取り組みを提案することで、お互いにメリットがある関係をつくる橋渡しを行っています。
主任の菊本隆博さんは、福祉施設が財源不足に悩む状況に直面したことがきっかけで、きょうとハート基金の仕組みを思いつきました。
「平成16年に、台風23号によって京都府の北部が大きな被害を受けました。私は、災害ボランティアの担当をしていて、いろいろな被害を受けた福祉施設に対応しました。施設の建物の被害に関しては、補助金が出て修理をすることができたのですが、パソコンなどの備品を新たに購入するための財源の手立てがなくて困っているという声が、被災した施設から多く出ました。
この時から何かあったときに福祉施設に助成ができる仕組みができないかと考えるようになりました」
と話す菊本さん。その後「きょうと福祉パートナー事業推進チーム」に配属された菊本さんは、コーポレートカードのポイントを災害のために積み立てるという新しい取り組みを発案しました。
福祉に携わる仕事だからこそ、社会貢献を
今年4月から、きょうとハート基金を導入した株式会社アグティ。この会社は、京都で医療福祉施設の清掃やクリーニング・洗濯代行サービスなどの業務を行っていて、主に営業で使う交際費や社員が使用する携帯電話などの通信費をコーポレートカードで決済しているそうです。
取締役の齊藤徹さんにお話を伺いました。
——なぜ導入することになったのですか?
「当社のお客様は、病院や老人ホームなどの福祉施設なのですが、これまでに仕事として以外には福祉に貢献してきたことがなかったんです。きょうとハート基金なら、コーポレートカードで経費の支払いをするだけで、福祉施設のお役に立つことができるので導入しようと思いました」
——社員からの反応はどうですか?
「『何も特別なことをしないでも現状のままで、社会貢献ができるところがいい』という声が一番多かったです。
何か取り決めをして行うような社会貢献活動だと、労力がかかってしまってスムーズに導入できないと思います。その点、きょうとハート基金は社員へ負担をかけずに導入できたので良かったと思います」
企業と福祉施設が手をつないで財源作りを
「これまで、企業が福祉施設に貢献したいという場合には、寄付・寄贈やボランティアという手段を取っていました。そういった形だけではなく、企業と福祉施設が協働で取り組めるような仕組みを作りたかったんです」
そう話す京都府社会福祉協議会の菊本さんは、まずは京都府内にある100ヶ所の福祉施設自体に“きょうとハート基金”へ加入してもらうことを目標に掲げています。
そして来年(平成24年度)には年額100万円の基金化を目指して広く企業にも呼びかけて、スタートから5年目の平成27年度には1,000万円の災害に備えるための基金を作ることを目標に考えています。
——今後の展望を教えてください。
「カードのポイント以外にも、寄付つきの商品を販売して、その寄付を基金に積み立てできないかと考えています。そしてこのきょうとハート基金を、災害時の助成だけでなく、避難マニュアルの作成や寝袋や簡易トイレといった資機材の準備など、福祉施設の防災・減災にも役立てていきたいです。それから一人暮らしの方の緊急通報装置や地域の子育て支援といった福祉サービスの向上や地域社会へ役立つ取り組みに対しても応援をしていきたいです」
会社の通常業務で発生する支払いをするだけで、自然に社会貢献ができる“きょうと福祉救援コーポレートカード”。この取り組みは、さまざまな企業がCSR活動をはじめる最初の一歩になっていきそうです。
2012年1月12日掲載 取材:真鍋