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インタビュー

2008年1月 8日

写真:自宅のベッドで過ごす平本さん。枕元に呼吸器が置いてある

〈人工呼吸器をつけて地域で暮らす〉
平本 歩(ひらもと あゆみ)さん

プールだって、スキーだって、
何だってできるんです

生まれつき筋力が低下していく難病のため、生後6か月から人工呼吸器をつけて生活している平本歩さん(21歳)。その日常が広く知られるようになったのは15年前。小学校に入学したときからでした。人工呼吸器をつけた子が、普通学級で学ぶことは、それまで日本ではなかったからです。中学校も高校も地元の学校に進んだ平本さんは、いま自分と同じように人工呼吸器をつけている子どもたちの支援に取り組んでいます。兵庫県尼崎市のご自宅でお話を伺いました。
※平本さんは中指1本でパソコンを操作して会話をします


写真:人工呼吸器。呼吸器からのびた管が平本さんののどにつながっている。空気が管を通して送られてくる

Q.これまで21年間、常時つけている人工呼吸器は平本さんにとってどういうものですか?

平本:呼吸器は生命維持装置ではなく、私の体の一部だと思います。私にとっては呼吸器をつけていることは普通のことで、呼吸器がない生活は考えたことがありません。

Q.呼吸器をつけているということは、命の危険ととなりあわせではないかと思うのですが、怖かったことなどありますか?

平本:呼吸器の管が外れてしまうことがときどきあります。外れた時は本当に死ぬかと思いました。

Q.どんなときに外れてしまうのですか?

平本:学校のエレベーターに乗ろうとした時に外れました。エレベーターってせまいですよね。私が外出するときに使うストレッチャーでは、そのまま乗れるエレベーターがほとんどないので、ストレッチャーのリクライニングを上げます。そうするとつないでいる管も持ち上がって、呼吸器とのつなぎ目が外れてしまうことがあるんです。

Q.そんなことがあっても、病院ではなく家で暮らして、地元の学校に通う方がよかった?

平本:家が絶対いい。病院なら何も楽しいことがないから。家にいれば学校にも行ったり、ショッピングをしたり、友達と遊んだりすることもできて楽しいです。

Q.平本さんは、いま、「人工呼吸器をつけた子の親の会」(バクバクの会)の活動に参加されていますね。

平本:呼吸器をつけた子どもたちが、地域で当たり前に生活できるように支援する活動をしています。また、当事者として、会の役員会やいろいろな集会に参加したり、情報収集したりしています。そして、会報誌「バクバク」の編集長として、集めた情報を会員に発信しています。原稿依頼や原稿集め、バクバクの会が主催したシンポジウムのテープ起こしなんかもしています。テープ起こしは大変。聞き取れなかったところや何て言うてるのかわからない部分を繰り返し聞いたりで、何日間もかかって大変です。

写真:小学校のときの授業の様子。平本さんのとなりには教師がついている

Q.人工呼吸器をつけた子どもを支援しようと思ったきっかけは?

平本:私の経験が少しでも生かされたらいいなと思ったからです。例えば、学校生活では、入学する時にいろいろな問題がありました。プールに入れなかったり、2階以上には移動できなかったり・・・。それに医療的ケアの問題もあります。私は、気管や気管支に痰がたまると苦しくなるので、痰の吸引が欠かせません。胃に直接ミルクやさゆを入れる経管栄養や呼吸器の管理なども必要です。そのため、父が小・中・高の12年間、学校に付き添っていました。私は、学校での籍は障害児学級でしたが、すべての学習や生活は普通学級で行いました。したがって障害児学級の先生が常時ついていましたが、医療的ケアをしてくれる先生もいれば、全くしない先生もいました。先生が医療的ケアをしてくれれば、父は学校に付き添わなくてよかったと思います。
他にも、駅のエレベーターがストレッチャー対応でなかったり、すべてのバスがノンステップバスでなかったり…と、いろいろな問題があります。私が小学校のころと比べても、まだまだ改善されていないです。だから呼吸器をつけた子どもたちが、安心して当たり前に生活できるような社会を目指して活動したいと思っています。

Q.この記事を読んでいるみなさんに伝えたいことは?

平本:私は、21年間、呼吸器をつけて生きてきました。呼吸器をつけていても、学校に行ったり、山登りをしたり、スキーをしたりしました。電車やバス、飛行機だって乗れます。でも、医療的ケアは欠かせないので、ケアをしてくれる人が必要です。医療的ケアと聞くと、何か特別なものなんじゃないかと考える人が多いと思いますが、私に関わるケアは、すべて私の生活を支えてくれる行為だと考えています。学校の先生やヘルパーさんでも、ボランティアでも、ケアの仕方や呼吸器の管理方法などを習得すれば、誰でも呼吸器をつけた人のサポートをすることができるということを、みんなに知ってもらいたいです。

人工呼吸器をつけた子の親の会(バクバクの会)は、人工呼吸器をつけた子どもたちの生活を豊かにしていくため、1990年、大阪で設立されました。初代の会長は歩さんの父・弘冨美(ひろふみ)さん。初めは小さな会でした。現在の会員数は約600名。北海道から沖縄までの全国組織となっています。詳しくはバクバクの会のホームページをご覧ください。別ウインドウが開きます。