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インタビュー

2008年3月31日

写真:手話で話している岩本さん。後ろでは作業所に通うなかまたちが紙袋の折り曲げの作業をしている 〈たつのこ作業所 所長〉
岩本 重雄(いわもと しげお)さん


ひとり一人のやりたいことに合わせて、仕事が増えていきました

NHK厚生文化事業団で行っている「わかば基金」。地域に根ざした福祉活動をしている団体に、支援金やリサイクルパソコンを贈り、活動を支援しています。去年、支援金を贈呈した団体の1つが、平成6年に設立された、主に聴覚に障害のある方が働いている小規模作業所「たつのこ作業所」です。働いている33人のうち約半数の方が、知的な障害なども併せもっています。所長はご自身もろう者である岩本 重雄さん(43歳)。兵庫県尼崎市にある作業所を訪ねました。


Q.聴覚に障害のある方の作業所は全国的にも少ないそうですね。

岩本:まだ30ほどですが、実はたつのこ作業所は聴覚障害者の団体が運営を担った日本で初めての作業所なんです。その団体は「尼崎ろうあ協会」といいまして、私はそこで聴覚障害者相談員をしていました。そのときに聴覚に障害のある子どもたちの親から相談がたくさんありました。もっとも多かったのが職業相談です。「就職できる場がない」「手話で会話できる施設がないので、就職しても長く続けられない」などです。そういった声を市役所にもっていって話をしたところ、作業所をたてたらどうかと話があり、設立しようと決意しました。

Q.設立したときに反響はありましたか?

岩本:全国では例がないというのもありまして、なんで必要なのかというようなイメージがあったようです。そんなとき、設立してちょうど1年後に阪神大震災が起こりました。聴覚障害者にとってはFAXが使えない、ラジオもテレビもわからないという混乱の中、たつのこ作業所が西宮市や芦屋市、尼崎市などに住む聴覚障害者の支援の拠点になったんです。それがきっかけで名前が全国に広がっていきましたし、聴覚障害者のための施設が地域に必要という考え方に変わってきた流れがあります。今ではたくさんのなかま(通所者)が集まったので、第一、第二、第三と3つのたつのこ作業所ができました。

Q.作業所ではどんな仕事をしているのですか?

岩本:設立当初からあるのは、紙袋の折り曲げやリサイクルした自転車の販売です。今ではそば茶の販売やテーマパークのクッキーやハンカチとかの袋詰め、箱作りの作業もやっています。また、飲食店の景品の袋詰め作業とかもやっています。ほかにもひとり一人のやりたいという声に合わせて仕事が増えていきました。やりたい仕事ができれば、毎日来るのが楽しくなると思います。

写真:うどん作りのなかまたち

Q.うどん作りもしていますね。

岩本:うどんを作ってみてはどうですかって声をいただいたのがきっかけでした。はじめはイメージがわかなかったんです。そんななか作業所の旅行で香川県に行って、そのときにうどん作り体験をしたんです。みんなニコニコしながら作ってました。その様子を見て、うどん作りしてみる?ってみんなに聞いたら、みんなやるやるって。それで始めました。
始めるにあたっては、うどんを作っている方から6か月間指導を受けました。その後、作業所のみんなで試行錯誤しながら何度も作って試食しました。作業所内だけでは意味がないので、この地域のたくさんの方々にも食べてもらって、アンケートをとって、それに合わせて作り直しました。その結果、今では兵庫県内の聴覚特別支援学校や尼崎市内の聴覚障害者団体とか、手話サークルとかから注文があります。みなさん、おいしいおいしいと言ってくださいます。

Q.うどん作りはたいへんではないですか?

岩本:生地を軟らかくするための足踏みがたいへんなんです。1人では足が疲れて負担になるので、万歩計をつけて1人200とか300とかで交代しながらやってました。それでも、みんな足が痛い、しんどいって。どうしたらいいかなって思ってたときに、簡単な作業で足踏みと同じように生地を軟らかくできる機械を見つけたんです。でも資金が・・・。そんなときにわかば基金の募集を見つけて申し込んでみたんです。

ローリングプレス機。1回15秒ほど うどんの生地に圧力をかける作業を2〜3回繰り返すだけで、足踏みと同じ効果がある。

Q.購入したのがローリングプレス機ですね。購入する前と後で変わったことは?

岩本:みんな、ほっとしたって感じですね。足踏みがなくなって(笑)。 それにすごくスムーズになったので、たくさん作れるようになりました。これまでの倍。実は4月からここがNPO法人に移行することが決定しました。うどんもたくさん作れるようになったので、うどんのお店をやっていきたいなって思って、いま建物を探しているんです。いまは7人くらいうどん作りの仕事をしていますが、その人たちの腕がもっと上がって独立してお店をもてたら、我々にとっても励みになります。

Q.今後のたつのこ作業所の展望は?

岩本:たつのこ作業所がきっかけで聴覚障害者の作業所が出来始めました。ここが良いモデルになって全国各地にもっと作業所ができたらいいですね。だからこそ率先して、社会に開かれる道をこれからも作っていかなくてはいけないと思ってます。

たつのこ作業所はNPO法人になり、第一は「たつのころうあハウス」、第二は「たつのこ工房」、第三は「尼崎聴覚障害者センター」と名称を変更しました。