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インタビュー

2006年10月 1日

写真:落合啓士さん近影

〈視覚障害者サッカー選手〉
落合 啓士(おちあい ひろし)さん

ワールドカップ出場の夢が
かないました

2年に1度開かれる「ブラインド(視覚障害者)サッカー世界選手権大会」に、今年、日本が初出場します。日本代表の選手の1人が落合啓士さん(29歳)です。子どものころ、サッカーのワールドカップに出ることを夢みていた落合さんですが、病気で徐々に視力が衰え、夢をあきらめざるをえませんでした。11月にアルゼンチンで開かれる「もうひとつのワールドカップ」に向けて練習を続ける落合さんを訪ねました。

Q.世界選手権の日本代表に決まったときは、どんな気持でしたか。

落合:ちっちゃいころからの夢だった『ワールドカップに行きたい』っていう気持が強烈によみがえってくるような感じで、表現できないくらいうれしかったですね。テレビで見たジーコの、すごくアクロバティックなシュートを見て、すごいなぁと思ってサッカーを始めたんですが、小学6年のときから視力がだんだんと落ちてサッカーをあきらめたんです。ブラインドサッカーと出会って、形は違うけど、夢をかなえることができました。 それに、ものすごくほっとしました。日本の世界選手権出場が決まったのは、去年、ベトナムでのアジア大会で優勝したからなんですけど、私はそのメンバーに選ばれなかったんです。代表に返り咲くまではサッカーだけに絞ろうと思って仕事も辞めて練習していたので、発表があるまで毎日ドキドキしてました。

Q.代表チームの合宿練習を見せてもらいました。監督が声で合図しているのはわかりますが、それにしても、速いパスが的確につながるのにはびっくりしました。

落合:晴眼者のサッカーって、誰でもやろうと思えばできるじゃないですか。奥深いところはありますが、ただ、ボールは触れるじゃないですか。でも、ブラインドサッカーっていうのは、練習しないとボールすら触れないんですよ。ボールに入っている鈴の音をよく聞かないとボールを足で止められないし、ドリブルも練習しないとすぐ転がっていっちゃうし、だから、すごく練習することが大事です。で、練習をして徐々に自分のイメージどおりにプレーができるようになってくると、すごくもう楽しくなっていって、どんどんどんどんはまっていっちゃうんです。

写真:世界選手権日本代表チームの仲間と

Q.自分の位置や、味方の位置、それから相手チームの選手の位置は、どうやって知るのですか?

落合:聞こえてくる情報や手や足の触覚の情報を仕入れて、頭の中でそれを映像化していくんですよ。だいたい監督はハーフウェーラインあたりに立っているので、監督の声を確認して自分の位置を確認したりとか。そこから、こっちの方向にこれくらいの速さで走っていけば、そろそろ壁があるなとか。相手選手がボールを取りにくる声とか、味方選手の声があると、人の配置とかもだいたいわかってくるんですよね。右から相手が来たから左にかわす。相手の裏に味方がいたから、ちょっとだけかわしてパスを出せばパスが通るな、とかね。見えない同士がパスして、パス取って、それを決めてくれたり、そのイメージどおりに進んだときっていうのは、すごく達成感がありますね。ブラインドサッカーのだいごみ醍醐味です。

Q.世界選手権に向けて心がけていることは、何かありますか?

落合:そうですね・・・アジア大会の代表から落ちたときは、ショックで挫折していました。精神的なダメージで体調を崩したりもしました。今思えば、いろんな意見をがつがつ言ったり、かっかしやすいプレーヤーでしたね・・・。ミスなんかあると一方的にきつく言ったりね。でも今は、みんなが言い合える、声をかけ合える環境を作ることが大切なんだと思うようになりました。誰かがミスしたら、みんなでカバーすればいい。みんなとのきずな絆っていうか、一人じゃないって思える、そういうのが試合の鍵を握っていると思っています。

Q.日本は初出場ですし、世界の壁は厚いと思いますが、世界大会の目標は?

落合:もちろん優勝しかないですよね。無失点で優勝。難しいですけど、守ることが自分のアピールなんで(注1)。無失点で優勝したら、日本は世界のトップに混ざれる。日本の名前をガツンと世界に印象付けられる。日本のブラインドサッカーは始まってからまだ5年。世界の1位をとって、これはほんまに空想というか夢のまた夢なんですけど、日本のブラインドサッカーをしている選手たちにスポンサーを付けられたらうれしい。今後の選手のためにも、頑張ってきたいと思います。

注1:落合さんのポジションは、コートの中央で主に守備を専門にプレーする守備的ミッドフィールダーです。

【ブラインドサッカー】
視覚障害のある選手4人と、晴眼者または弱視者が行うゴールキーパー1人の、計5人でプレーします。コートの大きさはサッカーの8分の1くらい。監督やコーラーと呼ばれる指示者が、選手の位置やゴールまでの距離を声で知らせ、選手はその声を聞きながら状況を判断してプレーします。日本には現在、全盲者がプレーするB1クラスが8チーム、弱視者がプレーするB2・B3クラスが4チームあり、落合さんは、B1の1つ、大阪ダイバンズに所属しています。
世界選手権大会は1998年から始まり2年おきに開催されています。第4回大会となる今年の大会には、日本のほかに、ブラジルやスペインなど9か国が参加します。
詳しいことは、日本視覚障害者サッカー協会のホームページをご覧ください