皆さん、こんにちは。私は、すでに不適応行動が出てきている子どもとどう向き合うか、というお話しをさせていただきます。
私は、今、「宮川医療少年院」というところにいます。少年院というのは国立の施設です。非行少年を扱っています。全国に52か所あります。その中に、「医療少年院」と名前のついているところは4つあります。
そのうちの2つは、心や体に病気のある非行少年を治療するための病院です。東に関東医療少年院、西に京都医療少年院があります。
あとの2つの医療少年院は何をやっているかと言いますとと、一番分かりやすく言うと、「少年院版の特別支援学校」です。知的障害があったり、発達障害があったり、通常の少年院での教育がむずかしい非行少年を対象に、「治療的教育」を行っています。
正確に言いますと、大分県に中津少年学院という、医療少年院というタイトルのついてない少年院がありまして、そこも同じように、知的障害があったり発達上のハンディキャップがあったりする非行少年を教育しています。
ですから、全国に3つある少年院版特別支援学校の中の1つで、私は仕事をしているということです。
今日は、あまり少年院の話はしません。どうしてかと言いますと、少年院という教育環境は、ものすごく「構造化」が可能なんですね。本当にわかりやすい状況を作りますので、その話をしても、一般の学校とか家庭とかで、そのままなかなか使えないんですね。それで、今日は少し違う角度のお話をします。
発達的なハンディキャップがある方への指導は、やって効果のある場所と、あがらない場所があります。
発達障害児支援の基礎の基礎
子どもにとって自然な場所で支援する(1)
どんな場所が効果が上がるかと言いますと、分かりやすく言うならば、「教室で起こることは教室で指導する」のが一番です。廊下で起こることは廊下で指導する、運動場で起こることは運動場で指導する、体育館で起こることは体育館で指導する、これが、自然な場所での指導ということになります。で、家庭でですね、子どもが宿題しない!とかいう場合は、勉強部屋で起こるわけですから、それはやっぱり勉強部屋が一番自然な場所ということになります。
反対に、効果が上がらない場所というのがあるんですね。こういうことを言うと、学校の先生で、学校教育相談をやっているような方はちょっとショックかもしれませんけども、カウンセリングルームというのは、あんまり効果があがってきません。なぜかと言いますと、特別な場所で指導されたことを、普段の場所に持っていって応用できるような器用な子どもがほとんどいない、というのがその理由です。
特別な場所は、家庭にもあるんですよ。例えば押し入れの中とかね。ああいうところでは絶対ダメです。私は、国立精神・神経センターというところで、小児科とか精神科の先生の研修を頼まれて行くことがあるんですが、そこでも「先生方の診察室というのは特別な場所ですよ」って言ってます。
それからもう1つ。集団の中で指導すること、これも、すごく大事です。
発達障害児支援の基礎の基礎
子どもにとって自然な場所で支援する(2)
我々は良かれと思って、個別的な指導を一生懸命やるということがあります。集団から引き離すというのは、場合によっては必要です。例えば、パニックを起こして暴れているときなど、その子を集団から引き離すのは必要です。ただし、集団から引き離す場合には、どういうかたちで集団に返すのかを考えておかないと、良かれと思ってやったことが、かえって孤立的な状況をつくってしまうことがあります。
基本は、集団の中で指導することが大事です。例えば、中学生ぐらいになると不良グループというのが出来てきますね。不良グループの指導で一番失敗するのは何か、と言いますと、特定のA君をそのグループからひっぱり出そうとすると、ダメなんですね。あのグループは、それなりの必然性をもって出来ていますから、その中の特定の子どもを引き離そうとすると、引き離すということにも莫大なエネルギーを使ってしまいます。果たして引き離せるかどうかも分からないですね。
中学校の先生からは、この不良グループの相談がいっぱいくるんですけれども、「何人くらい集まってますか?」と聞きますと、たいてい「6〜7人」と答えます。この6〜7人というのは、ソーシャルスキルトレーニングを一番やりやすい人数なんです。ですから、グループごとやるというのが、すごく大事なことです。
それからもう1つ、「一対一の人間関係」。これは大事なことです。大事なことなんですが、あんまりこれに頼りすぎますと、ちょっとまずいことが起きます。皆さんの今までの人生の中で、一対一の人間関係の中だけで、何かを成し遂げたという経験はありますか?
もしあれば、恋愛くらいじゃないですか? はっきり言って恋愛ってあまり社会的なものじゃないですよね?社会的なものじゃないから、恋愛はいいんです。
我々は今、何をしようとしているか、ということなんですね。恋愛のように濃密な対人関係スキルをトレーニングしようなんて、実は思ってないんです。我々が今、やろうとしてることは、子どもたちが大人になったときに、社会の中で自分の人生を楽しめるようにしたいと思ってやってるわけですよね。
社会の中というのは集団なんですね。決して、濃密な対人関係スキルじゃないんですよ。顔もあんまり知らないようなグループの中に入ったときに、きちんと挨拶ができますか?とか、きちんと物を頼むことができますか?とかですね、あるいは、お礼がいえますか?とか、失敗したときに、謝ることができますか?とか。それが試されている訳でありまして、決してこの恋愛のような濃密対人関係スキルは、社会適応という点からは、必要でない場合もあるんですね。
我々がやらなくてはいけないことは社会性の問題でありますから、一対一の人間関係っていうのは、実はあんまり社会的なものではないってことですね。
学校までは行けるけど教室に入れない、という子が結構います。当然のことですが、人によって理由はいろいろあります。中には、本人もはっきりと意識していないことが原因になっている場合もあり、いろいろな可能性を考えながら面接をする必要があります。
例えば、教室に入れない子どもの話を聞いてみたが、どうも理由がはっきりしない。面接を続けているうちに、周囲が騒がしくなると、その子が落ち着きをなくすことを発見した、というケースがあります。「聴覚過敏」が原因で教室に入れなかったのです。
聴覚過敏は、広汎性発達障害の子どもに結構あります。大事な音源と、大事じゃない音源がごちゃごちゃになるんですね。
人間の脳は、すばらしいシステムをいっぱい持っていますが、そのうちの1つが、「フォーカス」です。今日お見えの方が私の方に関心を向ける、注意のフォーカスを私の方に向けると、私の声が聞きやすくなります。他のノイズをそぎ落として聞きやすくする、そういうシステムを脳は持っています。
実は、この部屋にはいろいろなノイズが満ち溢れています。私の声の後ろに残響が残っていたり、エアコンの音、紙をめくる音、咳払いの音、歩く音、椅子がぎしぎしする音、いろいろあるんですね。私の話に注意を向けていると、そういう音が、あたかも起こってないような感じで聞こえるわけです。
こういう講演会を録音して、後でテープ起こしをする場合がありますが、あれ、面倒くさいでしょ? 聞き取りにくいですよね。なぜかといいますと、テープレコーダーのマイクは、聴覚過敏の耳と同じです。重要な音も、重要でない音も全部拾ってますので、聞き取りにくくなって、テープ起こしの作業が大変になるんですよね。私は、学校の先生の研修で、「是非、先生方の授業を録音してください。で、それを録音した状態を1回聞いてみてください、そうするとすごく聞きにくいなぁ、ということがお分かりになると思います」と言います。教室の中って、結構ざわつきがありますからね。「先生のクラスには、多分2人くらい、こういうふうに聞こえている子がいますよ」という話をします。
授業中であれば、まだいいんでしょうけれども、休み時間になると、あのざわざわって、嫌な音なんですよ、聴覚過敏の人にはね。
でも、子どもは、それをうまくことばで表現できないから、教師から「何か嫌なことでも言われそうな気がするのか」なんて言われますと、「はい」と答えることもある。ここで、教師が、「友達に何か嫌なことを言われそうな気がするから教室に入れないんだ」って思ってしまってはだめです。子どもの言葉に耳を傾けて共感するのは、すごく大事なことなんですけれども、間違った共感はタブーです。
子どもが教室に入れない原因がわかったら、どう指導するかを考えます。子どもが何かに困ると、周囲の人も困ります。困っている人みんなが集まって会議をして、うまくいかないこの困った状況をどうしたら打開できるか、と、ブレーンストーミングを行うことが大事だと思います。担任の先生やら保護者やらみんなで集まって、みんなの納得事項を決めていきます。
この、集まった人全員が共通認識を持つことが、すごく大事ですね。例えば、下記のようなことを確認するのです。
全員の共通認識事項
この子は、教室に入らない子ではありません、被害感の強い子どもでもありません。休み時間のざわざわが気になる子どもです。授業が始まれば、静かになれば、教室に入ることができる可能性が高まる子です、そういうことを確認していきます。
共通認識を持ったら、どうすれば良いかを決めていきます。
発達障害またはその兆候のある不登校生徒に
やってはいけないこと やってよいこと
不登校を助長するような刺激は避けてください。
例えば、不登校の子と仲の良い子どもがいる場合、不登校の子どもの席を、仲の良い子の隣にしようとしがちですが、久しぶりにクラスに入ろうとする不登校の子どもにとって、それが正解とは限りません。仲の良い子がクラスの前の方、しかも真ん中に座っていたとしたら、その子の隣に座りやすいでしょうか。久しぶりに入るクラスであれば、例えば、いちばん後ろの廊下側とか、そんな席がいいと思うかもしれません。その子が望む席の隣に、仲の良い子に座ってもらうのが良いのです。不登校行動を更に強化してしまうような刺激を伴わせてはいけないのです。
トラブルを避ける方法を学習することが大切です。
聴覚過敏の子どもの場合、休み時間に耳栓をするという方法は、だめな場合があります。耳栓をすると、しゅーっという音がしますよね。聴覚過敏の子どもは、あの音が嫌なこともあるからです。
休み時間、どうしても、しんどかったら、保健室へ緊急避難すればいいんです。で、チャイムがなったら静かになるわけですから、教室に帰ればいいんです。このやりかたを教えていくということなんです。
もちろん、不適応行動のもとになる刺激は、できるだけ取り除いてください。授業が始まったら教室を静かにさせる工夫は、ぜひ、先生お一人お一人にお願いしたいところです。
ほんとに困ったという相談の中に結構多いのが、30、40になって引きこもっている人の相談です。よく話を聞いてみると、不登校から始まってるというのがあります。学生のうちに修正してほしいところです。学校というフレームを外れますと、ケアされる部分が本当に弱まってしまいますので、是非、学校にいる間にスキルを高めてください。そもそも、対人関係スキルが低い子どもは不登校になりやすいわけですから、1人ひとりの子どもの個別的な事情を理解した上で、ソーシャルスキルを高めることが、不登校を予防する最強、最善の道です。
次は家庭内暴力の話をします。
家庭内暴力は、行動制御をしておかないと、将来、恋人や配偶者に暴力を振るう人になってしまう可能性が結構高いです。ですから、何とかしたいと思ってます。
例えば広汎性発達障害の子どもの場合、相手のことが分からない、いろいろなことにこだわる、言葉が変、といった特徴があります。これは、不適応の原因になりやすいです。アスペルガー症候群の子どもは、言葉は出ていますが、言葉というのは相手のことが分かって使うからいいのであって、相手のことが分からずに出てくる言葉はトラブルの原因になります。例えば、初対面の女性に、「おたくの体重何キロですか?」なんて聞いたりする。
それから、要求を阻止されると、大暴れすることがあります。要求することには本人のこだわりがあります。その要求が阻止されると、屁理屈を言いながら暴れます。中には包丁を持ち出す子どももいます。
では、どうするか。まずは協力してくれる人を探すことです。家庭内暴力のケースにはわりに多いのですが、お父さんが見て見ぬふりをするんですね。お母さんに「お前の育て方が悪いから、こんな風になったんだ」とかピントはずれなことを言ってね。そうなると夫婦喧嘩です。子どもは、それを良く見ています。
こういう状況では、お母さんだけの対応では無理です。親戚、兄弟姉妹、できるだけ多くの人に説明して、協力してもらえる体制を作らなければなりません。
包丁を持ち出すような危険度の高い家庭内暴力の場合は、「緊急避難」が有効です。ただし、今から言うプロセスを確実に踏んでやってください。プロセスを踏まないと、非常に危ないことが起こってしまいます。
緊急避難のプロセス
大事なことは、「子どもへの予告」です。「あなたが暴れるとお母さん怖い、あなたの指導なんかできなくなっちゃう。だから、あなたが暴れている間、お母さんはあなたの前から消えて、いなくなるよ」ということを、はっきり子どもに宣告してもらいます。
お母さんが一番心配されるのは、「緊急避難なんてことをしたら、更に暴れませんか?」ということでしょう。確かに、「緊急避難します」と宣告をしあとで、子どもが暴れる状況が起こったにも関わらず、ずるずる家にいたら、危なくてかなわないです。このやり方は、1回はっきりと予告をしたら、同じ状況が起こったら心を鬼にしてでも、すぐに飛び出していただくという方法です。
緊急避難をされるときには、「約束どおり避難します」と伝えること以外の言葉や、理屈を絶対交わしてはいけない、もう実行あるのみです。どこに行くかというのは、あらかじめ決めておきます。お姉さんのところでもOK、ご両親のところでもOKです。たとえ夜中であっても、「いつでもどうぞ」と受け入れてくれる態勢を整えておきます。
また実行したときに、学校の先生にホットラインを確保しておく。夜中であっても「今、実行しました」の電話を入れてください。そのための予行練習なんかもするといいでしょう。大地震のときの危機対応と一緒ですね。1回か2回、予行練習して、イメージトレーニングも積むということが大事です。これを積んで、緊急避難してください。
お母さんが緊急避難をした翌日、学校の先生に、こんなことを言ったアスペルガー症候群の子どもがいたそうです。「夕べ、お父ちゃんとお母ちゃんが喧嘩して、お母ちゃんが家出中なんや」。先生は、あんたが暴れたからだ、ということは分かっていますが、それは言わずに、「あ、そう、寂しくなったね」と答えたそうです。
そしたらこの子は「寂しくはないが、不便になった」と。これを「ひどいことを言うもんだ」と受け止めるようだと、残念ながら、アスペルガーの子どもさんの指導はできません。私が家内と喧嘩して、家内が「こんなところにおられるか」と家を飛び出したら、私は寂しいです。でも、私の感覚の中には、必ず不便になった、という部分があります。アスペルガーの子どもは、絶対うそは言いません。本当のことを言っています。だけど「本当のことがいかに人を傷つけるか」っていうのが分からないから、障害なんですよね。
そこを分かってあげる。しかも、そういうこと言ったら、「不便になったということが分かるんだ。それが多くの人にとっては、寂しいということなんだよ」ということを教える絶好の機会です。そういうふうに受け止めると指導ができてきます。
お母さんが緊急避難をしている間に、しらんぶりだったお父さんは子どもと否応なく向き合うことになります。また、子どもにも変化が出てくる場合があります。自己理解です。例えば、「俺、興奮すると、つい、おかあちゃんにキツイことを言っちゃうんだよね」ということを言い始めることがあります。
しかし、そもそも、何のために緊急避難をするのか、と言いますと、逃げ出すことが目的ではありません。「あなたが暴れたら、お母さんあなたの前からいなくなるよ」と決めたルールを明確にする、再確認することが目的です。
明確なルールを作るのですから、口約束は役に立ちません。二人での人間関係は、あまり社会的なものではない、と言いましたでしょ? 指きりげんまんのレベルじゃなくて、社会的な契約関係に近い約束にするのです。できれば第3者、我々みたいな支援者や学校の先生が入って、親子が約束をすることが望ましいです。
家庭内暴力への対応で大切だと思うのは、次のようなことです。
家庭内暴力への対応
まず、我々は保護者をサポートしなければならないのですけれども、サポートする側に危機管理能力が試される、ということです。危ない状況は、何としても避けなければなりません。
それからもっと大事なことは、子どもにコントロールされない親子関係です。
子どもにコントロールされるというのは、実は、大事なことです。私も、子どもにコントロールされるのが大好きです。けれども、子どもが暴れることによってお母さんんが子どもにコントロールされる、というのは望ましくありません。肝心要のところだけは、こちらが子どもをコントロールできるようにしておく必要があります。緊急避難は、そのための手段のひとつです。
それから、これは、声を大にして言いたいことなのですが、学校の勉強ができている子どもにも逸脱行動が結構あるんです。学校の勉強ができていると、他の事は壊滅状態でも、挨拶すらできなくても、全然問題視されない、という困った状況が日本には起こってます。学校の勉強ができていると、他のことが全然分からなくても、すーっと行ってしまうのです。そういう子どもが、思春期や青年期になったとき、職場とか友達関係とか、あるいは恋人との関係とか、そうしたことで行き詰まることがあります。
本当は、挨拶とか、頼むとか、謝るとか、そういうスキルトレーニングが必要です。アカデミックスキルも大事ですが、ソーシャルスキルも大事で、この両方のバランスを取らないと、子どもは生きにくくなってしまう、ということを、皆さんに申し上げたいと思います。
今日は、困ったことが起きてる子どもについての修復の仕方を、不登校と家庭内暴力を例にお話ししました。不登校はほっておくと、本人が困ったり、非行が出てきたり、ということにつながりやすいです。また、家庭内暴力は、将来のDVに発展しかねない、というところがあります。
まとめとして、効果がある支援についてお話しします。
効果のある支援とは
「死人のテスト」という言葉をご存知ですか? 行動分析の言葉ですが、「死んでいる人にもできるような事を目標にしても、全然、指導効果はあがりませんよ」ということを言っています。私も、日々反省しておりますが、死人のテストにひっかかる事ばかりを教育の目標にしやすいんですね。保護者の方だって一緒ですよ。先生方だって結構やってますよ。
じっとしてなさい、しゃべってはいけません、動いてはいけません。こんなことは、死んでいる人でも出来るわけです。今、じっとしているためには、どういう行動を学習させたら良いか、今ここでしゃべらないためには、どういう社会的なスキルを学習させたら良いか、というところにポイントを置きなさい、ということなのです。
一番、やりやすい方法の1つは、「褒める」ことです。
褒める
ADHDの子どもは、ほんとに褒められる機会がないので、もう、ちょっとでもいいことしたら、すぐに褒める。「即時フィードバック」です。これは、すごく大事な事です。少年院でもやります。
ただし、褒めてばっかりだと駄目です。褒めてばっかりだと、褒められないと何にもやらなくなるということが起こります。褒めるにも、少し技術が必要です。
例えば、ADHDの子どもの代表的な症状の1つに、不注意、ぼんやりというのがあります。勉強にとりかかっていると、すぐに、ぼやーっとしてきます。見ていると分かります。お母さんだって分かると思う。ぼやーっとして窓の外を見てるとかね、分かります。
そこで、「おい、ちゃんと話聞いてるか」と言いますと、ぱっと目が覚めるんですね。だけどまた、ぼやーっとしてくるんですよね、これがADHDのぼんやりです。
小道具として、ストップウォッチを持たれることお勧めします。どれくらいでぼやーっとしてくるか時間を計ってください。だいたい法則性があります。で、例えば10分くらいでぼやーっとしてくる子がいるとしたら、7分経ったころ、今からぼつぼつ怪しいぞ、というときにですね、「今日は、ちゃんと話を聞いているな、すごいな」というようなフィードバックをするんです。
これ、えらい違いですよ。一方はしかってますよ、「話聞いてるか」とか言って。もう一方は、すごい褒めてるわけでしょ。しかっても褒めても目は覚めるんですね。だから同じお目覚めをしてもらうんだったら、気持ちよく目覚めてもらったほうが目覚めの効果が長続きしますので、褒めるほうが正解なんですね。
いい事が起こりそうなときに褒める。いいことがあったら、もちろん褒める、これが大事です。
それから、褒められないと何にもやらなくなることを避けるために、褒め方を少しずつ変えて「随伴性マネージメント」というやり方をします。
代表的なやり方が2つあります。
1つは、褒めるタイミングを遅らせる。今まで、3回いいことしたら3回とも褒めていたとしたら、その度ごとに褒めるのではなくて、例えば学校の先生だったら、授業の終わりのときに、「今日はすごかったよ、何かいいことあったん?」という返し方をする。つまり、順番を遅らせていって、最終的には、褒めなくても、その行動が自発的に出来るようにもっていく、というやり方です。映画と一緒で、フェードアウトしていく、その意味で、「フェーディング」という言い方をします。
もう1つ、もっと効果のある方法がありまして、褒め方そのものを変えてしまいます。例えば、3回褒めなきゃいけない場面があったとします。最初は、3回とも褒めますが、それで特定の行動が持続するようになったら、2回は褒めますが、あとの1回は褒めない。褒めないけど、にっこりするというやり方です。
何で褒めるタイミングを遅らせたり、褒める内容を変えていくか、説明しましょう。いいことがあったらすぐに褒められるという状況は、いわば特別な状況です。最初に、「子どもの行動は、特別な場所で学習したことは、なかなか、普段の場面では応用できないよ」と言いましたが、自然な場所で指導する場合でも、特別な状況を作ってしまった場合は、それを少しずつ解いて、普通に返していくというプロセスが必要なんです。
ただね、さっき言った「にっこりする」というのは、発達障害があると、表情の読みが非常に下手な場合がありますので、先生のにっこりした顔とむっつりした顔を、子どもにしっかり学習させてから、このテクニックを使ってください。
それから、何言っても、「知らーん」とか言ってる子どもでも、こちらに振り向かせないと教育ができませんし、モチベーションを高めないといけません。
その際の、最後の最後に残った手段が、子どもを「感動させる」という方法です。ただ、感動なんて教育の原点なんで、そんなこと分かってるというふうにおっしゃる先生が多いかもしれませんが、是非分かっていただきたいのが、ADHDの子どもと広汎性発達障害の子どもとは、感動のさせ方が違う、ということです。
感動体験の重要性
ADHDの子どもはですね、昨日までできなかったことが今日できた、ということが、すごい感動になります。分数計算できたなんて、これすごいですよ。
それから、みんなでやったら何かできた、というのが、すごく感動します。昔、宇治少年院で、みんなで大縄跳びに挑戦して、何百回もできたら、ものすごいやる気が高まった、という本が出て話題になりましたが、これは、ADHDにすごい有効なやり方です。
ところが同じことを、広汎性発達障害、アスペルガーの子どもにやると、あんまり感動してくれないですよ。感動してくれないどころか、「先生、大縄跳びするのに何の意味があるんですか?」と言いますからね。
広汎性発達障害の子どもには、それだけではだめです。あの子たちは、もっとマニアックですからね。私は、子どもに会う前の日に、この子はどんなことを言うと喜ぶ子なのか、どんなことを言うと嫌がる子なのか、もう徹底的に資料を見ます。で、この子は何に関心をもっているのかがわかったら、そういうのを丸暗記するくらいに覚えてから、子どもと会います。
興味関心の領域はわりに限定的ですから、例えば列車の時刻表とか、恐竜の名前とか、軍艦の名前とか、空飛ぶ円盤とか。わりに、わかりやすいところに興味を持っていることがありますので、その特定の領域については、本が書けるくらいの知識を入れます。
例えば、軍艦大好きな少年がたくさんいますよ。人気投票すると、ナンバーワンは戦艦大和。これはあまりにもメジャーなので、ちょっと横にどけまして、2番手にあがってくるのは何かご存知ですか? なぜか、ドイツの戦艦ビスマルクというのが出てくるんですよ。名前がいいんですかね。で、戦艦ですから大砲を積んでいますよね。主砲塔を4つ積んでいて、それぞれ名前がついています。艦首から艦尾に向かって、「アントン」「ブルーノ」「ツェーザル(カエサル)」「ドーラ」です。頭文字が、A,B,C,Dと並ぶわけです。そんなことを私が知っているとわかると、子どもたちは、けっこう目をキラキラさせて感動してくれます。
ともかくマニアックなことに感動しますから、「すごい、この先生知ってる」というのが感動の源になりますので、是非、アスペルガーの子を感動させてください。今までできなかったことができたことで感動してくれるADHDの子ども、マニアックに感動してくれるアスペルガーの子どもを、私は大好きです。
最後に、保護者の支援について申し上げます。「がんばりましょう」はだめなんです。保護者の方が、自分の中から「がんばろう」というやる気が高まるようなやり方でないとだめです。
私は、少年院に子どもが入ってくると、命をかけることがあります。
何かと言いますと、保護者の方が面会にお見えになるんですね。そのときに、子どもの方から「面会にきてくれてありがとう」とお礼を言えるようにします。できたらもう1つ上のスキル、「今まで迷惑かけてごめんね」と謝る。
これをやると、どうなるでしょうか。非行少年の親子関係は、親が子どもに何を聞いても「別に」と言うならまだいいです。「うるせー、くそババア」なんて言って、全然話にならないです。そういう経験をしてきた保護者が面会室に入ったら、子どもから「ありがとう」と言われる。これはもう、目の前で、保護者の元気が変わってくるんですね。
これも先ほどの感動体験と同じことです。究極の保護者支援というものは、保護者の方に内面から元気になっていただくことです。決して学校に協力的になってもらうことじゃないです。そこを、是非分かってください。
今日は、発達障害があるといろいろうまくいかない状況があるので、どういうふうに対処していくかというお話をしましたが、結局は、子どもに元気になってもらう、保護者の方にも元気になってもらう。サポートする僕らも元気になる。そういうことだと思っています。
小栗 正幸さんによる講演『青年期の社会的不適応の予防と修復』の抄録をお読みいただきました。小貫 悟さんによる『子どもの社会性の発達に関する支援』の抄録は、制作中です。しばらくお待ちください。
法務省所属の心理学専攻者(法務技官)として、犯罪者や非行少年の資質鑑別に従事し、福井、富山、岐阜、山口、京都、大阪などの少年鑑別所の首席専門官を経て、宮川医療少年院院長。2009年3月31日、退職。
特別支援教育ネット代表。特別支援教育士スーパーバイザー。
NHK厚生文化事業団、NHK長野放送局、信州発達障害研究会
長野県自閉症協会、長野アスペ東北信、NPO長野アスペ中南信親子お楽しみ会、えじそんくらぶ長野(チャイルド・ドリーム)、発達障害児・者及び家族支援の会 シーズ
長野県、長野県教育委員会、長野市、長野市教育委員会、長野県自閉症・発達障害支援センター、日本発達障害ネットワーク(JDDネット)、全国LD親の会
小貫 悟さん(明星大学准教授)による『子どもの社会性の発達に関する支援』の抄録は、こちらをご覧ください。
終わり