串田 綾香「キリン☆キリン☆キリン」 HEARTS & ARTS VOL.142
公開日:2026年4月16日

今回ご紹介するのは、奈良県にお住まいの串田 綾香(くしだ・あやか)さんの作品です。
串田さんは、NHK HEARTSが行う2025年度の「NHK障害福祉賞」に手記を応募され、最優秀を受賞しました。
受賞作のタイトルは「アール・ブリュット」。
串田さんは子どもの頃から周囲に「普通じゃない」と遠ざけられていました。『“普通”になりたい!』。そう願っていた串田さんは、周囲と同じように振る舞う“擬態”を覚えました。しかし自分を押し隠し、人と過剰に合わせすぎたために心が空っぽに。。。その療養中に出会ったのが絵を描くことでした。
手記には、絵を描くことで自分自身を取り戻していく様子が描かれています。
串田さんの受賞作はこちらからお読みいただけます。
発達障害当事者の串田さんは企業でアーティスト社員として、様々な作品を作り続けています。その作品の一部を、作者自身の解説とともにご紹介します。
私が最優秀を受賞した手記「アール・ブリュット」で少し触れたキリンの絵です。この作品を描いたことがきっかけとなり、「SHIFT Challenged Art 公募展」で入選し、現在の就業先への入社につながりました。
内側の枠から今にも飛び出しそうなキリンには、当時の意気込みを鮮明に呼び起こすエネルギーが、生々しく息づいています。作品中央のメインモチーフには、ボール紙を一穴パンチでくり抜いたパーツを貼り付け、アクリル絵具で着色しています。
私は「うまくいかなくても、コツコツと重ねることがやがて意味を持つ」をコンセプトに、2019年から創作活動を始めました。物心ついた頃から、周囲が当たり前のようにできることができず、失敗ばかり。生きることさえ難しく、何度も立ち止まってきました。
そんな私に手を差し伸べてくれた人たちの力に引っ張られ、重い体を動かし続けるうちに、「創作活動を通じて多くの人の笑顔につなげたい」と願うようになり、やがてピアサポートに挑戦するまでになりました。ASD(自閉スペクトラム症)の特性から対人関係が極端に苦手な私にとっては、大きな進歩です。
それができたのは、支えてくださった方々と一緒に積み上げてきた蓄積があったから。これからも、そんな人たちと考え、支え合いながら、小さな歩みを重ねていきたい。なんとなく積み重ねてきた礎の螺旋が、いつかArtと呼ばれる日を願って。
今の会社に入社して初めて制作した貼り絵作品です。ボール紙をハサミや一穴パンチでくり抜き、パーツを組み合わせることで、メインモチーフであるフクロウを形作りました。
フクロウでありながら、LGBTQ+の尊厳や多様性を象徴するレインボーフラッグをイメージしています。私は発達障害や精神疾患に加え、セクシュアルマイノリティ(クエスチョニング)でもあり、身体の性が女性であることから「女性」と呼ばれることに強い違和感を抱き続けてきました。かといって「男性」とも言い切れず、言語化できないまま心の奥に押し込めてきた感覚があります。
「こだわらなければいい」と言われればそれまでですが、押し込めた感情はどんよりと巨大化して再び現れます。そんなとき、鮮やかなレインボーカラーはいつも私を勇気づけてくれます。性も個性も、多様であっていいのだと。
会社員として絵を仕事にするようになってから、どこまでも飛んでいけるような跳躍を楽しめるようになりました。創作活動で培ってきたコツコツとした作業や思索のスキルを活かして働くことができ、それが評価や誰かの笑顔につながっていく。苦手な接客業で叱責され続けていた頃には想像もできなかった安定です。
もし誰もが自身のスキルを最大限に伸ばせる環境を得られるのなら、この折り鶴のように、大きな跳躍が生まれるのかもしれません。
マネジメントメンバーからのリクエストに応えて制作した、初めての協業作品です。相手の意図を汲み取り、自分の中にイメージを落とし込んで構造化していく作業は、作品制作でありながら、同時にArtを介した「会話」でもあると気づきました。
これまで自分は会話が苦手だと思い込んでいましたが、実際には音声によるコミュニケーションが苦手なだけで、手法を変えれば好きになれる可能性もあるのかもしれません。筆談、手話、点字など、さまざまなコミュニケーションツールがあるように、手段が多様化すれば、人と人とのつながりの視野も広がるはずです。
頭から羽が生えるような喜びも、ひらめきも、他者がいてこそ生まれるものです。
NHK障害福祉賞の受賞をきっかけに、「アール・ブリュット」とは何かを自分自身に問い直す中で生まれた技法です。ボール紙の片側にアルミテープを貼り、目打ちで模様を施し、もう片側にはハサミで無造作に切ったボール紙を貼り付け、アクリル絵具で着色しています。
従来は均等なパーツを使うことが多かったのですが、今回はあえて無造作に切ることで、何ひとつ同じ形のない“不均等な自由さ”を表現しました。雪解け水のように、思考の緊張がほどけていく感覚を目指しています。
串田さんは、アール・ブリュットの作家や興味・関心のある方々が気軽に集える場があればと、ソーシャルメディアで「アール・ブリュット作家の会」を運営しています。
これまでのHEARTS & ARTSは、こちらのページでご覧いただけます。

「キリン☆キリン☆キリン」
「反復」
「大空を染め上げかがやくレインボー」
「折り鶴」
「頭から羽が生える日もあるさ」
「頭から羽が生える日もあるさ」の制作過程
「雪解け水」
